【経営者のための会計講座②】減価償却費は、お金が出ていかない費用|返済の原資はどこから生まれるのか

第1回では、利益と現金がずれる5つの理由を見ました。今回は、その中でいちばん誤解されやすい「減価償却費」を、お金の目で見直します。

減価償却費は、損益計算書に毎年出てくる費用です。ところが、この費用のために通帳からお金が出ていくことはありません。この性質を知ると、「会社が本当に稼いだお金はいくらか」「銀行への返済に回せるお金はいくらか」が計算できるようになります。経営者が決算書から読み取るべき、いちばん実用的な数字のひとつです。

目次

1. 現金は買った時に出て、費用は後から分割される

サンプル工務店が、300万円のトラックを現金で買ったとします。通帳からは、買った日に300万円が出ていきます。ここまでは、感覚のとおりです。

ところが損益計算書では、この300万円は買った年の費用にはなりません。トラックは5年、10年と使うものなので、使う年数に分けて、毎年少しずつ費用にする決まりになっています。たとえば5年で分けるなら、毎年60万円ずつ。この毎年の60万円が「減価償却費」です。

現金は一度に、費用は5年に分けて 現金 費用 −300 60 60 60 60 60 買った年 2年目 3年目 4年目 5年目 単位:万円。買った年の現金 −300 に対し、費用は 60×5年 = 300

▲ 現金と費用のタイミングのずれを示した図。トラックを買った年に現金が300万円出ていき、費用(減価償却費)は買った年から5年間、毎年60万円ずつ計上される。5年間の費用の合計は300万円で、現金の支出と一致する。

※ 買った年の費用は、使い始めた月からの月割りになります(期首に買えば1年分)。図は分かりやすくするために単純にしています。また、実際に何年で分けるか(法定耐用年数)は資産の種類ごとに決まっていて、計算方法にも定額法と定率法があります。くわしくは法人税の基礎講座⑤をご覧ください。

2. 減価償却費は「お金が出ていかない費用」になる

買った年に、現金は出ていきました。では翌年はどうでしょう。損益計算書には減価償却費60万円が費用として出てきて、利益を60万円減らします。しかし、通帳からは1円も出ていきません。もう払い終わっているからです。

つまり、損益計算書の利益は、減価償却費の分だけ、本業が実際に生み出した現金より小さく見えます。逆に言えば、「税引後利益」に「減価償却費」を足し戻した金額が、その年に本業で稼ぎ出した現金(返済や投資に回す前の金額)の目安になります。これを「簡易キャッシュフロー」と呼びます。

サンプル工務店なら、税引後利益420万円に減価償却費100万円を足して、520万円。これが、この会社が1年で稼いだお金です。

3. 返済の原資は「税引後利益+減価償却費」

第1回で見たとおり、借入金の元本返済は費用になりません。利益の中から返すのではなく、稼いだお金の中から返すのです。そのため、返済に回せるお金(返済原資)は、税引後利益に減価償却費を足した金額で考えます。

返済に回せるお金はいくらか 税引後利益 420 + 減価償却費 100 = 稼いだお金(返済原資) 520 返済 360 160 返済しても160万円の余裕(単位:万円) 元本の返済は費用ではなく、 稼いだお金の中から返す

▲ 返済原資の考え方を示した図。税引後利益420万円に減価償却費100万円を足した520万円が、その年に稼いだお金。年間の返済360万円を引いても、160万円の余裕がある。

サンプル工務店の年間返済は360万円(月30万円)でした。稼いだお金520万円に対して返済360万円ですから、160万円の余裕があります。この160万円が、売掛金の増加や設備投資に回せるお金の上限です(税金は、税引後利益の段階ですでに引いてあります)。第1回では、ここに売掛金の増加200万円とトラック購入300万円が重なったため、現金が340万円減りました。

では、もし年間の返済が600万円だったらどうでしょう。520万円−600万円=−80万円。利益は出ているのに、毎年80万円ずつ現金が減り続けます。「黒字なのに返済が苦しい」という会社は、多くの場合この状態です。返済額が稼いだお金を上回っているのなら、返済期間を長くする、借り換える、といった手を打つ必要があります。この話は第8回で扱います。

4. 銀行はこの数字で「何年で返せるか」を見る

「税引後利益+減価償却費」は、銀行が決算書を見るときに重く見る数字のひとつでもあります。借入金の残高から手元の現預金を引いた金額を、この稼いだお金で割ると、いまのペースで稼ぎ続けたら、何年で借入を返し終えるかが分かります。これを「債務償還年数」といいます。

よく使われる計算は、(借入金 − 現預金)÷(税引後利益 + 減価償却費)。手元の現預金は、いざとなれば返済に充てられるので、借入金から差し引いて考えます(銀行によっては、現預金ではなく運転資金を差し引くなど、計算のしかたが少し違います)。

債務償還年数 = 何年で返し終えるか (借入金 2,400 − 現預金 900)÷ 稼いだお金 520 = 約 2.9 年 0年 20年 目安 10年 サンプル工務店 2.9年

▲ 債務償還年数の計算を示した図。サンプル工務店は借入金2,400万円、現預金900万円、稼いだお金520万円なので、(2,400−900)÷520=約2.9年。一般に目安とされる10年を大きく下回っている。

サンプル工務店の借入金が2,400万円、現預金が900万円だとすると、(2,400−900)÷520=約2.9年。一般に、この年数が10年以内に収まっているかが目安とされ、それを超えると返済負担が重いと見られます。2.9年なら、銀行から見て「十分に返せる会社」と評価されやすい水準です。

ここで大事なのは、分母が「利益」ではなく「利益+減価償却費」だということです。設備の多い会社ほど減価償却費が大きく、利益が小さく見えても返済原資は十分にある、ということが起こります。自社の決算書で、この年数を一度計算しておく価値があります。銀行の見方は第9回で、借入の考え方は第8回でくわしく扱います。

5. 「償却しなければ利益が増える」の落とし穴

法人の場合、法人税のルール上は、決算で減価償却費を計上するかどうかを会社が決められます(任意償却。会計のルールでは毎期継続して償却するのが原則です)。そのため、赤字を避けたい年に「今年は償却しないでおこう」と考える経営者もいます。たしかに損益計算書の利益は増えます。

しかし、銀行はここを必ず見ます。決算書の固定資産の明細を見れば、償却していないことはすぐ分かるので、銀行は償却していない分を自分で差し引いて利益を評価し直します(償却不足)。利益が増えて見えても評価は上がらず、むしろ「利益を作っている会社」と見られて信用を落とします。

さらに、費用にしなかった分だけ課税所得(税金の計算のもとになる利益)が増えるので、税金を早く払うことになります。現金の目で見れば、償却しないことに得はありません。減価償却は、毎期欠かさず計上する。これが基本です。

6. 小さな設備は、使い始めた年に全額費用にできる(2026年4月から40万円未満)

ここまでの話の例外として、知っておきたい制度があります。青色申告をしている中小企業(資本金1億円以下で、従業員400人以下)は、1つ40万円未満の設備なら、分割せずに、買って使い始めた年に全額を費用にできます(少額減価償却資産の特例)。年間の合計で300万円までという上限があります。

この「40万円未満」は、令和8年度の税制改正で、2026年(令和8年)4月1日以後に取得する資産から引き上げられたものです(それ以前は30万円未満)。適用期限は令和11年(2029年)3月31日まで延長されています。

現金の目で見ると、この特例の効果は「税金を減らす」というより、税金を払う時期を後ろにずらすことにあります。買った年に全額費用にすれば、その年の課税所得が減り、納税が減った分だけ現金が手元に残ります。パソコン・工具・事務機器など、1つ40万円未満のものを買う時は、この制度を使えるかを確認してください。くわしい要件は法人税の実務講座⑦にあります。

7. 設備を借入で買うなら、返済期間を設備の寿命に合わせる

最後に、設備投資と借入の関係をひとつ。300万円のトラックを借入で買うとき、返済期間を何年にするかで、毎年の資金繰りが変わります。

300万円のトラック:返済期間で年間返済はこう変わる 3年返済 年100万円 5年返済 年60万円 7年返済 年約43万円 減価償却費 年60万円(5年)の線 返済が償却より速いと、差額は利益(税引後)から出すことになる

▲ 返済期間と年間返済額の関係を示した図。300万円を3年で返せば年100万円、5年なら年60万円、7年なら年約43万円。減価償却費が年60万円(5年)なら、3年返済では毎年40万円が償却費を超え、その分を税引後の利益から出すことになる。

減価償却費は年60万円。3年返済にすると年100万円を返すので、毎年40万円は償却費の外、つまり利益から出すことになります。利益が薄い年は、ここで資金繰りが苦しくなります。設備の寿命(耐用年数)に合わせた返済期間にしておけば、返済はおおむね減価償却費の範囲に収まり、資金繰りは安定します(銀行も、設備資金の返済期間は耐用年数の範囲内で組むのが通例です)。借入の相談をするときは、「返済期間を設備の寿命に合わせたい」と伝えることをお勧めします。

まとめ:第2回のポイント

  • 設備の現金は買った時に出る。費用(減価償却費)は使う年数に分けて後から出る。
  • そのため減価償却費は、費用だが現金は出ていかない。利益に足し戻した「税引後利益+減価償却費」が、その年に稼いだお金。
  • 借入の元本は、この稼いだお金の中から返す。サンプル工務店は520万円稼いで360万円返し、余裕は160万円。
  • 銀行は(借入金−現預金)÷(税引後利益+減価償却費)で「何年で返せるか」を見る。目安は10年以内。
  • 償却をやめて利益を増やしても、銀行は差し引いて見る。税金も早く払う。減価償却は毎期欠かさず計上する。
  • 1つ40万円未満(2026年4月以後の取得分)の設備は、買って使い始めた年に全額費用にできる。年300万円まで。
  • 設備を借入で買うなら、返済期間は設備の寿命に合わせる。返済が償却より速いと利益から出すことになる。

次回は、損益計算書の読み方です。損益計算書には「5つの利益」があり、銀行が重く見るのは営業利益と経常利益。本来は毎年の損失なのに特別損失に入れてしまうと、銀行にはどう見えるのか。経営者が知っておくべき区分の話をします。

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※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものであり、個別の会計・税務相談に応じるものではありません。計算例の金額は説明のための想定です。減価償却の方法や少額減価償却資産の特例の要件は、資産の種類や会社の状況により異なりますので、実際の判断にあたっては専門家にご相談ください。

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