【経営者のための会計講座⑥】現預金は「固定費の何か月分」で見る|手元資金の目安と資金繰り表

「現預金は、いくらあれば安心ですか」。経営者からよく受ける質問です。答えは金額ではなく、月数で持ちます。売上が止まっても、何か月なら会社を回し続けられるか。今回は、その目安の決め方と、先の資金の動きを見る道具「資金繰り表」の作り方です。

第1回で「利益と現金は別もの」、第2回で「返済は稼いだお金から」、第5回で「いくら売れば足りるか」を見ました。今回はそれらを現金の側からまとめ直します。黒字でも手元の現金が尽きれば会社は止まります。逆に、現金に余裕があれば、少々の赤字は乗り越えられます。経営で最も強いのは、手元の現預金です。

目次

1. 目安は「固定費の何か月分」

手元資金(現金と、すぐ使える預金の残高。以下「現預金」)の目安は、月の固定費(給与・家賃・車両費など、売上がなくてもかかる費用)の何か月分あるか、で測ります。サンプル工務店の固定費は年2,600万円、月に約217万円。現預金900万円は、約4.1か月分です。

現預金 ÷ 月の固定費 = 何か月もつか 3か月分未満 3〜6か月分 6か月分以上 危険 耐えられる 安心(目標) サンプル工務店 4.1か月 900万円 ÷ 217万円 = 4.1か月。目標は6か月分(約1,300万円)

▲ 手元資金の目安を示した図。固定費の3か月分未満は危険、3〜6か月分は耐えられる、6か月分以上が安心の目標。サンプル工務店の現預金900万円は、月の固定費217万円の約4.1か月分。

目安は、最低でも3か月分、目標は6か月分です。3か月分を切ると、大口の入金が1か月遅れただけで給与の支払いが危うくなります。6か月分あれば、受注が途切れても半年は体制を保ったまま次の仕事を探せます。サンプル工務店の4.1か月分は、「耐えられるが、目標にはまだ届かない」水準です。

借入の返済がある会社は、固定費に月の返済額を足して考えると、より実態に近くなります。サンプル工務店なら、固定費217万円+返済30万円=月247万円。900万円÷247万円=3.6か月分。こちらの数字のほうが、実際の「もつ月数」です。

2. なぜ「月数」で見るのか

金額ではなく月数で見る理由は2つあります。ひとつは、会社の規模が変わっても同じ目安が使えること。年商8,000万円の会社の900万円と、年商3億円の会社の900万円は、意味がまったく違います。月数にすれば、どちらも「何か月もつか」で比べられます。

もうひとつは、危機の形が「入金が止まる」だからです。大口の取引先の倒産、受注の途切れ、入金の遅れ――どれも起こるのは入金側です。一方、給与・家賃・返済といった支出は止まりません。そのため「支出だけが続いたら何か月もつか」が、そのまま会社の耐久力になります。

3. 足りないなら、減る前に借りる

手元資金が目安に届かないとき、大きな手は2つです。利益を積み上げて増やすか、借りて増やすか。売掛金の回収を早めて現金に換える方法もあり、これは第7回で扱います。利益で増やすには時間がかかるので、現実的には業績が良いうちに借りて、手元を厚くしておくのが王道です。

借入をすれば、第4回で見た自己資本比率は少し下がります。それでも、手元資金が尽きて支払いが止まるリスクのほうが、はるかに重い。銀行は、資金が苦しくなってからの会社には貸しにくく、余裕のある会社には貸しやすい、という性質があります。「必要になってから」ではなく「必要になる前に」。借入の考え方は第8回でくわしく扱います。

4. 資金繰り表 ― 先の現金の動きを月ごとに見る

いまの残高が分かったら、次は「先」です。資金繰り表は、月ごとに、前月からの繰越に入金を足し、支出を引いて、翌月への繰越を出す表です。難しい書式は要りません。大事なのは、税金や賞与など、毎月はない大きな支出を、起こる月に入れておくことです。

資金繰り表の例(単位:万円) 項目 4月 5月 6月 前月からの繰越 900953526 + 入金(売掛金の回収) 700650720 − 材料費・外注費 400400400 − 固定費(給与・家賃など) 217217217 − 借入金の返済 303030 − 法人税・消費税の納付 04300 翌月への繰越 953526599 5月は納税で、目安(固定費の3か月分=約650万円)を下回る

▲ サンプル工務店の資金繰り表の例。4月は繰越900万円に入金700万円を足し、材料費・外注費400、固定費217、返済30を引いて翌月繰越953万円。5月は入金650万円に対し、法人税・消費税の納付430万円が重なって翌月繰越526万円。6月は入金720万円で599万円に戻る。5月に目安の650万円を下回る。

この表を見ると、5月に納税430万円(第3回の法人税等180万円と、消費税約250万円。中間納付がない場合)が重なって、残高が目安の650万円を下回ることが分かります。表がなければ、5月末に通帳を見て慌てるところです。表があれば、4月のうちに「納税分を別口座に取り分けておく」「納税資金の短期借入を銀行に相談する」「急がない設備や備品の購入を翌月以降にずらす」といった手が打てます。資金繰り表の価値は、慌てる前に気づけることにあります。6か月、できれば1年先まで作っておくと、次の節の年間の山がすべて見えます。

5. 毎月はない大きな支出を、先に書き出す

資金繰りが苦しくなるのは、多くの場合「毎月はない支出」が重なる月です。3月決算の会社なら、年間の山は次のようになります。

  • 5月: 法人税・地方税・消費税の確定分の納付(決算日の翌日から2か月以内)、自動車税
  • 7月: 夏の賞与、労働保険の年度更新(1年分の保険料の申告・納付)、源泉所得税の納期の特例(給与の支給人員が常時10人未満で、税務署長の承認を受けた会社が半年ごとにまとめて納める制度。1〜6月分)
  • 11月: 法人税・消費税の中間納付(前期の税額が一定以上の会社)
  • 12月: 冬の賞与
  • 1月: 源泉所得税の納期の特例(半年分)、償却資産の申告(申告のみ。納付は固定資産税と一緒に年4回)

特に注意したいのが消費税です。第1回で触れたとおり、売上の入金に含まれる消費税は、お客様から預かっているだけのお金です。通帳の残高には入っているので、自分のお金のように見えます。対策はひとつ。納税用の口座を分けて、毎月、納める見込みの消費税(売上で預かった分から、材料費・外注費などで支払った分を引いた差額)を移しておくこと。法人税も月次の利益から見込み額を同じ口座に積んでおけば、5月の山はほぼ消えます。賞与も同じで、毎月12分の1ずつ積み立てておけば、7月と12月に慌てずに済みます。

まとめ:第6回のポイント

  • 手元資金は金額でなく月数で見る。現預金÷月の固定費。最低3か月分、目標は6か月分。
  • 借入の返済がある会社は、固定費に月の返済額を足して割る。サンプル工務店は900÷(217+30)=3.6か月分。
  • 月数で見る理由は、危機の形が「入金が止まる」だから。支出だけが続いたら何か月もつかが耐久力。
  • 足りないなら、業績が良いうちに借りて手元を厚くする。資金が尽きるリスクのほうが、自己資本比率の低下より重い。
  • 資金繰り表は「繰越+入金−支出=翌月繰越」を6か月先まで。価値は、慌てる前に気づけること。
  • 納税・賞与・労働保険など、毎月はない支出を先に書き出す。消費税と賞与は毎月積み立てて、口座を分ける。

次回は、「売上が増えたのにお金が足りない」の正体、運転資金です。売掛金の回収までの日数、支払いまでの日数から、いくらの運転資金が必要かを計算します。

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※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものであり、個別の会計・税務相談に応じるものではありません。計算例の金額は説明のための想定です。手元資金の目安や納税の時期は会社の状況により異なりますので、実際の判断にあたっては専門家にご相談ください。

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