「借金はしたくない」。真面目な経営者ほど、そう考えます。しかし、ここまでの回で見てきたとおり、会社を止めるのは赤字ではなく、現金が尽きることです。借入は、現金が尽きないようにするための道具であり、使い方さえ間違えなければ、経営を守る側に立ちます。今回は、経営者が持っておくべき借入の考え方を、5つに絞ってまとめます。
1. 借入には「良い借入」と「危ない借入」がある
借入の良し悪しは、金額ではなく「何のために借りるか」で決まります。目的は3つに分かれます。
▲ 借入の3つの種類を示した図。設備資金は設備の寿命に合わせて長期で返し、返済の元は利益と減価償却費。運転資金は売掛金や在庫の立て替えで、短期の借入や当座貸越が向き、返済の元は売掛金の入金。赤字の穴埋めは固定費を借入で払うもので、返済の元がなく、借入が増え続ける。
設備資金と運転資金は、良い借入です。どちらも「返す元」がはっきりしています。設備なら、その設備が生む利益と減価償却費。運転資金なら、立て替えた売掛金の入金。借りたお金自体が、返済の元を生む構造です。
危ないのは、赤字の穴埋めです。給与や家賃が払えないから借りる。これは返す元がないので、翌月も同じことが起こり、借入だけが増えていきます。この形の借入が始まったら、第5回で見た損益分岐点を割っている原因(粗利率か、固定費か、売上か)を直す計画を持つことが先です。銀行への相談は遅らせず、その計画と一緒に持っていきます。計画のない赤字の穴埋めは、銀行も貸しにくい借入です。
2. いくらまで借りてよいか ― 返済原資と債務償還年数
借入の上限は、「銀行が貸してくれる額」ではなく「自分が返せる額」で決めます。第2回で見たとおり、返済に回せるお金(返済原資)は、税引後利益+減価償却費。サンプル工務店なら520万円でした。年間の返済額が、この範囲に収まっているかが第一の基準です。
ただし、返済原資をすべて返済に回すと、売掛金の増加(第7回の増加運転資金)や設備の更新に回すお金がなくなります。銀行が決めた基準ではありませんが、目安として、年間の返済額は返済原資の7割以内に抑えると、資金繰りに余裕が残ります。サンプル工務店の返済360万円は、520万円の約69%。目安の上限に近い水準です。
第二の基準は、債務償還年数10年以内。(借入金−現預金)÷返済原資で、サンプル工務店は(2,400−900)÷520=約2.9年。ここに余裕があるなら、追加で借りる余地があります。たとえば、あと1,000万円借りても(3,400−900)÷520=約4.8年で、10年の目安には届きません。ただし、第一の基準で見ると、サンプル工務店の年間返済額はすでに目安の上限に近い水準です。債務償還年数に余裕があっても、年間返済額の基準を超えるなら、返済期間を長くとるか、利益を増やして返済原資を厚くしてから、と考えます。二つの基準は、片方だけで判断しません。
3. 借りるタイミング ― 晴れた日に傘を借りる
借入でいちばん大事なのは、金額よりタイミングです。銀行は、業績が良く、手元資金に余裕のある会社には貸しやすく、資金が苦しくなってからの会社には貸しにくい。この性質は変わりません。そのため、借りるべきタイミングは「困ったとき」ではなく「困る前」です。
▲ 借りるタイミングを示した図。業績が良く現金に余裕があるときほど借りやすく、資金が減り始めると審査が厳しくなり、尽きる直前には借りられない。黒字の決算書が出た直後が、最も借りやすい。
具体的には、黒字の決算書ができた直後が、最も借りやすいときです。銀行は最新の決算書で判断するので、良い決算の年は、その決算書が「新しい」うちに動きます。第6回で見た手元資金の目安(固定費の6か月分)に届いていないなら、この時期に長期の借入で手元を厚くしておく。第7回の売掛金の立て替え(短期)とは目的が違い、こちらは何年も手元に置くお金なので長期で借ります。これが「晴れた日に傘を借りる」という考え方です。
借りたお金を使わずに預金しておくと、利息分だけ損に見えます。しかし、それは「資金が尽きない」状態を保つための費用です。年利2%で1,000万円を借りて寝かせても、利息は年20万円。信用保証協会の保証料が付いても、合わせて年数十万円です。会社が止まるリスクと比べれば、小さな負担です。
4. 金利が上がる時代に、確かめておくこと
長く続いた「金利ゼロ」の時代は終わりました。日本銀行は2026年9月18日の会合で、政策金利を1.25%程度に引き上げました(2026年10月時点)。銀行の貸出金利も、これに連動して上がり始めています。
経営者が確かめておくことは3つです。①いまの借入は変動金利か固定金利か。 変動金利なら、短期プライムレート(銀行が優良企業に1年以内で貸すときの基準金利。多くの変動金利はこれに連動します)の見直しに合わせて返済額が増えます。②金利が1%上がったら、年いくら増えるか。 サンプル工務店の借入2,400万円なら、1%で年24万円。これは固定費の増加と同じで、第5回の損益分岐点を60万円押し上げます。③固定金利への借り換えを検討する価値があるか。 長期の設備資金は、固定金利で返済額を確定させておくと、資金繰り表が組みやすくなります。
5. 経営者保証 ― 社長の個人保証なしで借りられる道が広がっている
中小企業の借入では、長く「社長の個人保証」が通例でした。会社が返せなければ社長が個人で返す、という契約です。これが、思い切った投資や事業承継をためらわせる原因になっていたため、国は「経営者保証に依存しない融資」を進めています。
2023年4月からは、金融機関が個人保証を求めるときに、なぜ必要かを具体的に説明することが求められるようになりました。2024年3月からは、信用保証協会の保証付き融資で、保証料を上乗せするかわりに経営者保証を付けない制度の申込みが始まっています。
経営者保証を外すための条件は、おおむね3つです。法人と個人のお金が分かれていること(第4回で見た役員貸付金がないこと。サンプル工務店の150万円は、まず精算が要ります)、財務基盤が健全であること(自己資本比率・債務償還年数が目安の範囲)、銀行に数字を正直に、早く開示していること(月次試算表を出せること)。つまり、このシリーズで見てきたことを実践している会社は、経営者保証なしの融資に近づきます。次に借入の相談をするときは、「経営者保証なしは可能か」を必ず確認してください。
まとめ:第8回のポイント
- 借入の良し悪しは目的で決まる。設備資金・運転資金は良い借入(返す元がある)、赤字の穴埋めは危ない借入(返す元がない)。
- 上限は「返せる額」。年間返済は返済原資(税引後利益+減価償却費)の7割以内、債務償還年数は10年以内。
- タイミングは「困る前」。黒字の決算書が出た直後が最も借りやすい。借りて寝かせる利息は、資金が尽きない状態を保つための費用。
- 金利は上がり始めている(2026年9月、政策金利1.25%程度)。変動か固定か、1%上がると年いくら増えるか、借り換えの価値があるかを確かめる。
- 経営者保証なしの融資が広がっている。法人と個人の分離・財務基盤・情報開示の3条件。相談時に必ず聞く。
次回は、銀行の側から決算書を見ます。融資の審査で銀行が確かめている数字と、「良く見せる」のではなく「正しく見せる」ために決算前にできることを、具体的に挙げます。
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※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものであり、個別の会計・税務・融資の相談に応じるものではありません。計算例の金額は説明のための想定です。金利や融資の制度は変わることがあります。記載は2026年10月時点の情報です。実際の判断にあたっては、取引のある金融機関や専門家にご相談ください。