「事業計画は大きな会社が作るもの」「どうせ計画どおりにはいかない」。社長からよく聞く言葉です。半分は当たっています。計画どおりにはいきません。しかし、事業計画は当てるために作るものではありません。先に数字を決めておくことで、ずれたときに早く気づき、手を打つために作ります。今回は、このシリーズの番外編として、なぜ事業計画が要るのか、どんな計画なら社長の役に立つのかを、サンプル工務店の数字で見ていきます。
1. 計画がない会社で、起きていること
計画がなくても会社は回ります。ただし、数字を「後から知る」会社になります。このシリーズで見てきた場面を並べると、どれも同じ形をしています。
- 決算で初めて赤字を知る。 試算表はあっても、比べる相手(計画)がないので、良いのか悪いのか判断できない。気づいたときには期が終わっている(第10回)。
- 借入の相談が後手になる。 いつ資金が足りなくなるかが見えていないので、苦しくなってから銀行に行く。銀行がいちばん貸しにくいタイミングです(第8回)。
- 賃上げも採用も勘で決める。 「払えそう」「忙しいから」で決めて、固定費が増えた分を売上で取り返す見込みがない(第11回)。
- 納税で慌てる。 決算の2か月後に出ていく税金を数えていないので、5月に通帳を見て驚く(第6回・第12回)。
▲ 計画がない1年と計画がある1年を比べた図。計画がない会社は、毎月の試算表を見るだけで、翌年5月の決算で初めて赤字を知り、6月に慌てて銀行へ行く。計画がある会社は、4月に計画を1枚作り、毎月の試算表を計画と比べ、9月にずれに気づいて手を打ち、2月に決算前のチェックをして、5月の決算は想定どおりになる。違いは「比べる相手があるか」だけ。
上の段と下の段で、会社の力も、試算表の中身も同じです。違うのは、比べる相手があるかどうか。計画は、試算表を「見るだけの書類」から「判断の道具」に変える物差しです。
2. 事業計画は「予想」ではなく「必要な数字の逆算」
計画と聞くと、「来年の売上はいくらになりそうか」を予想することだと思われがちです。しかし、社長に役立つ計画は逆向きに作ります。いくら必要かから逆算するのです。順番は3段です。
- 必要な利益。 借入の返済(第8回の返済原資)と、手元に積み増したい現預金(第6回)から決まります。
- 必要な粗利。 必要な利益に、固定費(第5回)を足したものです。
- 必要な売上。 必要な粗利を、粗利率で割ったものです。
サンプル工務店で計算します。年間の返済は360万円、減価償却費は100万円。返済を利益でまかない、さらに手元の現預金を年100万円増やすなら、必要な税引後利益は 360+100−100=360万円。税金を約3割として、税引前の利益で約520万円です。固定費2,600万円を足して必要な粗利は3,120万円、粗利率40%で割ると、必要な売上は7,800万円になります。
▲ 必要な売上を逆算する3段の図。必要な利益は、返済360万円と手元の積み増し100万円から減価償却費100万円を引いた税引後360万円(税引前で約520万円)。固定費2,600万円を足した必要な粗利は3,120万円。粗利率40%で割った必要な売上は7,800万円で、今年の実績8,000万円はこの線を200万円上回っている。
この7,800万円が、サンプル工務店の「守るべき線」です。今年の8,000万円は、この線を200万円上回っていました。そのため現預金が増え、返済も滞らなかった。もし来期、第11回の月2万円の賃上げ(年110万円)をするなら、固定費が2,710万円になり、必要な売上は(520+2,710)÷40%=8,075万円に上がります。賃上げの判断が、そのまま来期の売上目標に変わる。これが逆算の計画です。
予想ではないので、当たる・外れるはありません。あるのは「線の上にいるか、下にいるか」だけです。線の下にいると分かったら、第5回の3つ(粗利率・固定費・売上)のどれを動かすかを決める。計画の役目は、この判断を期の途中でできるようにすることです。
3. 計画は1枚で足りる
事業計画というと、何十ページもの書類を思い浮かべるかもしれません。銀行や補助金に出す計画書には決まった書式がありますが、社長が毎月使う計画は1枚で足ります。載せる数字は5つです。
- 売上の目標(必要な売上を下回らない数字)
- 粗利率(今年の実績を基に。上げる根拠があるときだけ上げる)
- 固定費(賃上げ・採用・家賃など、決まっている増減を入れる)
- 必要な利益(返済と手元の積み増しから逆算)
- 期末の現預金(固定費の何か月分になるか)
▲ サンプル工務店の1枚の事業計画。今年の実績と来期の計画を並べた表。売上8,000万円→8,300万円、粗利率40%のまま、固定費2,600万円→2,710万円(月2万円の賃上げ)、営業利益600万円→610万円、必要な売上(守るべき線)7,800万円→8,075万円、期末の現預金900万円→1,067万円(固定費の4.7か月分)。
この1枚ができたら、売上と固定費を12で割って月の数字にします。サンプル工務店なら、月の売上692万円、月の固定費226万円。これが毎月の試算表(第10回)と比べる相手です。1枚の計画の中身は、銀行に出す計画書や補助金の事業計画書の土台にもなります。書式は違っても、聞かれるのは同じ5つの数字だからです。
4. 計画が要る場面は、社長が思うより多い
計画は社長のために作るものですが、外から求められる場面も増えています。手元に1枚あれば、どの場面でもそこから作れます。
- 銀行。 融資の相談では、資金繰り表と「何に使い、どう返すか」の説明が要ります(第9回)。赤字のときほど、改善の計画があるかどうかで銀行の返事が変わります(第8回)。
- 補助金・助成金。 多くの補助金は、事業計画書の中身で採否が決まります。申請のたびにゼロから書く会社と、1枚の計画を書式に合わせて広げる会社では、かかる時間も通りやすさも違います。
- 採用。 「この会社はどこへ向かっているか」を語れる社長のもとに人は集まります。賃上げの見通し(第11回)も、計画があって初めて約束できます。
- 社長自身。 受注を受けるか断るか、設備を買うか待つか、人を雇うか。判断の物差しが「線の上か下か」に変わると、迷いが減ります。
5. 作ってからが本番 ― 毎月、実績と比べて直す
計画は作った瞬間から古くなります。そのため、作ることより比べ続けることに価値があります。やることは3つです。
- 毎月、試算表と並べる。 翌月10日までに締めた試算表(第10回)の横に、計画の月の数字を置く。見るのは売上・粗利率・固定費の3つ。
- 差の原因を3つに分ける。 売上が足りないのか、粗利率が下がったのか、固定費が増えたのか。原因によって打つ手が違います(第5回)。
- 四半期ごとに計画を直す。 大口の受注が決まった、材料が値上がりした、人が辞めた。前提が変わったら計画も変える。直した記録が残っていることが、銀行にとっては「管理ができている会社」の証拠になります。
▲ 計画と実績を毎月比べる表の例。4月は売上が計画692万円に対し650万円で不足し、粗利率も38%に下がり、固定費も230万円と増えた。5月・6月は戻り、3か月の累計では売上が6万円の不足。4月の原因は値引きで受けた1件の工事で、見積もりの基準を見直すという手につながる。
この表があれば、4月の時点で「値引きの工事が粗利率を2ポイント下げた」と分かり、5月の見積もりから直せます。計画がなければ、4月の売上650万円は「まあこんなものか」で流れ、同じ値引きが続いていたかもしれません。計画の価値は、当たることではなく、ずれに意味を持たせることにあります。
まとめ:事業計画のポイント
- 計画は当てるためではなく、ずれに早く気づくために作る。試算表を「判断の道具」に変える物差し。
- 予想ではなく逆算。必要な利益 → 必要な粗利 → 必要な売上。サンプル工務店の守るべき線は7,800万円、賃上げをするなら8,075万円。
- 社長の計画は1枚で足りる。売上目標・粗利率・固定費・必要な利益・期末の現預金の5つ。12で割って月の数字にする。
- 銀行・補助金・採用・社長自身の判断。計画が要る場面は多く、1枚あればどこへも広げられる。
- 作ってからが本番。毎月試算表と並べ、差を売上・粗利率・固定費に分け、四半期ごとに直す。
計画づくりは、社長が一人で抱える必要はありません。数字の土台(今年の実績、返済、固定費)は会計事務所が持っています。社長が持っているのは、来期の受注の見込みと、人と設備の判断です。この2つを1枚に合わせるところから、計画は始まります。
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※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものであり、個別の会計・税務・融資の相談に応じるものではありません。計算例の金額は説明のための想定で、税金は利益の約3割で概算しています。実際の計画づくりにあたっては専門家にご相談ください。