【経営者のための会計講座⑨】銀行は決算書のここを見る|融資に有利になりやすいポイント

融資の審査で、銀行は決算書のどこを見ているのか。これを知っておくと、決算書の「作り方」と「見せ方」が変わります。ただし、目指すのは良く見せることではありません。正しく見せることです。銀行は何百社もの決算書を見ているので、取り繕いはすぐに見抜かれ、見抜かれた瞬間に信用を失います。今回は、銀行が見ている数字と、信用を積み上げるための準備を、ここまでの回のまとめとして整理します。

目次

1. 銀行は決算書を「点数」にする

銀行は、受け取った決算書から機械的に指標を計算し、点数を付けて会社を格付けします。細かい方式は銀行ごとに違いますが、見ている指標はおおむね共通です。このシリーズで扱ってきたものばかりです。

銀行が見る主な指標(サンプル工務店の値) 指標 何を見るか 値 目安 自己資本比率(第4回) 体力・借入への依存度 32% 30%以上 債務償還年数(第2回) 何年で返せるか 2.9年 10年以内 営業利益・経常利益(第3回) 毎年の稼ぐ力 600万円 黒字が続く 売上高経常利益率(第3回) 同業との比較 7.5% 業種平均 流動比率(第4回) 短期の支払い能力 176% 120%以上 借入金 ÷ 純資産 借入の重さ 1.5倍 低いほど良い

▲ 銀行が見る主な指標とサンプル工務店の値を示した図。自己資本比率32%(目安30%以上)、債務償還年数2.9年(10年以内)、営業利益・経常利益600万円の黒字、売上高経常利益率7.5%(業種平均と比較)、流動比率176%(120%以上)、借入金÷純資産1.5倍(低いほど良い)。

サンプル工務店は、表面の数字ではどの指標も目安の範囲に入っています。銀行の債務者区分(会社を返済能力で分けた区分)では「正常先」、つまり通常に融資を受けられる会社です。ただし次の節の実態修正を当てると、役員貸付金150万円を引いた実態の自己資本比率は約30%で、目安の下限近くまで下がります。逆に言えば、この6つのどれかが目安を大きく外れている会社は、その指標を直すことが融資への近道になります。自己資本比率が低いなら利益を残して積み上げる、債務償還年数が長いなら返済原資を増やすか借入を減らす、経常利益が赤字なら第5回の損益分岐点に戻る――という具合です。

2. 銀行は、決算書を「実態」に直してから点数にする

点数にする前に、銀行は決算書の数字を自分で修正します。これまでの回で触れた「実態修正」です。表面の数字が良くても、修正後の数字で評価されるので、ここを知らずに決算書を作ると、思ったより低く見られます。

銀行が決算書に加える「実態修正」 決算書にこうあると 役員貸付金・仮払金がある 1年以上動かない売掛金がある 古い在庫・済んだ工事の原価が残る 減価償却をしていない 毎年ある費用が特別損失にある 銀行はこう直す 純資産から差し引く 回収できないものとして引く 資産から外す 償却費を引いて利益を減らす 経常利益に戻して評価する

▲ 銀行が決算書に加える実態修正を示した図。役員貸付金・仮払金は純資産から差し引く。1年以上動かない売掛金は回収できないものとして引く。古い在庫や終わった工事の原価は資産から外す。減価償却をしていなければ償却費を引いて利益を減らす。毎年ある費用が特別損失にあれば経常利益に戻す。

この修正は、どれも「実態より良く見える要因」を消すものです。つまり、良く見せる工夫は効かない。意図がなくても、修正が多い決算書は「お金の管理が甘い会社」と見られ、点数とは別の意味で信用を落とします。目指すべきは、修正されるところがない決算書です。

3. 数字の外で見られていること

格付けは数字だけで決まるわけではありません。特に中小企業では、担当者が会社と社長をどう見ているかが、同じくらい影響します。見られているのは、次のようなことです。

  • 月次の試算表を出せるか。 決算書は年に1回。その間の会社の状態を、試算表で毎月説明できる会社は、それだけで評価が上がります(第10回)。
  • 資金繰り表があるか。 先の資金の動きを自分で把握している証拠です(第6回)。
  • 税金・社会保険料の滞納がないか。 滞納があると、信用保証協会の保証が原則として受けられず、融資はほぼ止まります。資金が苦しくても、ここだけは最優先で払います。どうしても払えないときは、放置せず税務署や年金事務所に分割の相談をし、銀行にもその事実を先に伝えます。
  • 社長が自分の言葉で数字を説明できるか。 「粗利率が下がったのは材料の値上がりで、見積もりに反映済み」と言える社長と、会計事務所に任せきりの社長では、同じ決算書でも評価が違います。
  • 悪い知らせを早く伝えるか。 大口の取引先を失った、大きな赤字が出そう――そういう話を、決算書が出る前に自分から伝える会社は信用されます。隠して決算書で発覚するのが、いちばん悪い形です。

4. 「正しく見せる」ために、決算の前にできること

現預金や役員貸付金のような「決算日の残高」は、決算日を過ぎてからでは動かせません。そのため、正しい決算書にするための準備は、決算日の前に始めます。粉飾ではなく、本来あるべき姿に整える作業です。

  • 役員貸付金・仮払金を精算する。 社長個人の資金で返す、立替経費を精算する。役員報酬を増やして返す場合は、期の途中の増額は税務上費用にならないので、期首に決めておく。決算日の残高をできるだけ小さくする(第4回)。
  • 減価償却を全額計上する。 償却を止めて利益を作らない(第2回)。
  • 特別損益を正しく区分する。 臨時のものは特別損益に、毎年あるものは経常に(第3回)。
  • 回収できない売掛金を処理する。 回収の見込みがないものは貸倒れとして落とす。税務上は落とせる条件が決まっているので、どの形で落とすかは税理士と確認する。残しておいても銀行は引く。
  • 終わった工事を完成させる。 未成工事支出金に残っている完了済みの工事は、売上と原価に振り替える(第7回)。
  • 手元の現預金を厚くしておく。 決算日の現預金残高は、手元資金の月数と債務償還年数(借入金−現預金)に出る。回収を早めて現預金に変えておく。支払いを決算の後にずらすのは、買掛金が膨らんで銀行に分かる「良く見せる工夫」なので、しない(第6回・第7回)。

この6つは、第12回の「決算前チェック」でさらに具体的に扱います。

5. 融資の相談に持っていくもの

最後に、実際に銀行へ相談に行くときの準備です。銀行が求めるのは、「この会社はお金の流れを把握していて、返せる根拠がある」と分かる資料です。

融資の相談に持っていく5つ ① 決算書 3期分(申告書・勘定科目内訳明細書を含む) ② 直近の月次試算表(決算から時間が経っているほど重要) ③ 資金繰り表(6か月先まで。借りた後の返済も入れる) ④ 借入金の一覧(金融機関・残高・返済額・金利・変動か固定か) ⑤ 何に使い、どう返すかの説明 (設備なら見積書、運転資金なら受注の資料)

▲ 融資の相談に持っていく5つの資料を示した図。決算書3期分、直近の月次試算表、6か月先までの資金繰り表、借入金の一覧、資金の使い道と返済計画の説明。

この5つがそろっていて、社長が自分の言葉で説明できれば、銀行の担当者は「稟議(社内の審査書類)が書きやすい会社」と感じます。担当者が書きやすいことは、融資が通りやすいことと、ほぼ同じ意味です。もうひとつ。取引する銀行は、2行以上にしておくことをおすすめします。1行だけだと、その銀行の方針が変わったときに逃げ場がありません。

まとめ:第9回のポイント

  • 銀行は決算書を点数にする。主な指標は自己資本比率・債務償還年数・営業利益と経常利益・売上高経常利益率・流動比率・借入金÷純資産。
  • 点数にする前に、役員貸付金・滞留売掛金・古い在庫・償却不足・特別損益の付け替えを「実態」に直す。良く見せる工夫は効かない。
  • 数字の外では、月次試算表・資金繰り表・納税の状況・社長の説明力・悪い知らせの早さが見られている。
  • 決算の前にできるのは「正しく見せる」こと。役員貸付金の精算、全額償却、特別損益の区分、貸倒処理、完成工事の振替、現預金を厚く。
  • 相談には、決算書3期・月次試算表・資金繰り表・借入一覧・使途と返済計画の5つを持っていく。取引銀行は2行以上。

次回は、ここまで何度も出てきた「月次試算表」の話です。年に1回の決算書ではなく、毎月の数字で経営を回すために、試算表をどう作り、どこを見るか。締めを早くすること、発生主義で作ることの意味を扱います。

あわせて読みたい


※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものであり、個別の会計・税務・融資の相談に応じるものではありません。計算例の金額は説明のための想定です。銀行の審査基準は金融機関や時期によって異なります。実際の判断にあたっては、取引のある金融機関や専門家にご相談ください。

この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!
目次