「決算書は黒字なのに、通帳のお金は増えていない」「利益が出たと言われたのに、税金を払うお金がない」。経営者の方から、いちばん多く聞く言葉のひとつです。
この「経営者のための会計講座」は、簿記の技術ではなく、経営の判断に使うための会計の読み方を、ひとつずつ身につけていくシリーズです。決算書のどこを見れば会社の状態が分かるのか、銀行は何を見ているのか、手元のお金をどう守るのか。架空の会社の数字を使いながら、できるだけ平易に進めます。
第1回の今回は、すべての土台になる考え方、「利益」と「現金」は別もの、という話です。ここを理解すると、決算書の見え方が変わります。
1. 利益と現金は、別の計算から生まれる
利益は、損益計算書という書類で計算します。1年間の「売上」から「費用」を引いた残りが利益です。ここで大切なのは、売上も費用も、お金が動いた時ではなく、取引が確定した時に数える、というルールです(発生主義といいます)。工事が完成して引き渡せば、入金がまだでも売上です。完成した工事に使った材料は、支払いが来月でも費用です。
一方、現金(この講座では、手元の現金と預金を合わせて「現金」または「現預金」と呼びます)は、通帳の「入金」から「出金」を引いた残りです。こちらは、お金が実際に動いた時にしか動きません。
つまり、利益と現金は、数えるタイミングも、数える中身も違います。黒字と残高が一致しないのは、どちらかが間違っているからではなく、最初から別の計算をしているからです。
▲ 利益と現金が別の計算から生まれることを示した図。損益計算書の利益は「売上−費用」で、取引が確定した時に数える。通帳の残高は「入金−出金」で、お金が動いた時にしか変わらない。計算のルールが違うので、黒字でも残高が増えないことがある。
2. 利益と現金がずれる、5つの理由
ずれの原因は、大きく5つに整理できます。自社に当てはまるものがいくつあるか、数えながらお読みください。
理由① 売掛金 ― 売上になっても、入金はまだ
工事が完成して引き渡した時点で売上は立ちますが、入金は1〜2か月先です。その間、売上はあるのに現金はありません。この「請求したが、まだ受け取っていないお金」が売掛金です(建設業の決算書では「完成工事未収入金」と書かれることもあります)。
しかも、工事や仕事が増えて売上が伸びるほど、売掛金も膨らみます。「忙しくなったのに、お金が足りない」という状態は、多くの場合ここから生まれます。
▲ 入金と支払いのタイミングのずれを示した図。4月に工事をして、4月末に給与と外注費を支払い、同時に請求書を出して売上を計上する。入金は6月末。この2か月間は、売上はあるのに現金は出ていくだけになる。
理由② 在庫・未成工事 ― 払ったのに、まだ費用にならない
材料を仕入れてお金を払っても、まだ使っていなければ、それは在庫です。費用になるのは、使った時。建設業なら、工事の途中でかかった材料費や外注費は、工事が完成して売上になるまで「未成工事支出金」という資産として置いておきます。
つまり、お金は先に出ているのに、損益計算書にはまだ費用として出てこない。利益は減らないのに、現金だけが減っている状態です。
理由③ 借入金の返済 ― 現金は出るが、費用ではない
銀行への返済は、毎月まとまった現金が出ていきます。ところが、元本の返済は費用になりません。借りた時に売上にならなかったのと同じで、返す時も費用にならない。損益計算書に出るのは利息だけです。
そのため、利益が出ていても、返済額がそれより大きければ現金は減ります。「返済はどこから出るのか」は、第8回でくわしく扱います。
理由④ 設備投資 ― 現金は一度に出て、費用は何年にも分かれる
300万円のトラックを買えば、現金は300万円、その時に出ていきます。ところが損益計算書には、300万円がそのまま費用として出てくるわけではありません。使う年数に分けて、たとえば毎年60万円ずつ、5年かけて費用にします。これが減価償却です。
買った年は、現金は300万円減ったのに、費用は60万円だけ。翌年からは逆に、現金は1円も出ていないのに、費用が60万円ずつ出てきます。利益と現金がずれる、いちばん分かりやすい例です。この話は、次回(第2回)で正面から取り上げます。
理由⑤ 税金・消費税 ― 利益は今期、納付は翌期
法人税などの税金は、決算日の翌日から2か月以内に納めます。つまり、利益が出た年の現金ではなく、翌期の現金から出ていきます(前年の税額が一定以上の会社は、期の途中に「中間納付」として前払いする分もあります)。決算で「利益が出た」と分かってから、納税までに手元のお金を使ってしまうと、納付の時に困ります。
消費税はさらに注意が必要です。売上の入金には消費税が含まれていますが、これはお客様から預かっているだけのお金で、利益ではありません(納めるのは、材料や外注で自社が払った消費税を差し引いた残りです)。通帳の残高には入っているので、自分のお金のように見えます。ここを分けて考えないと、納付の時にまとまった金額が足りなくなります。
3. サンプル工務店の1年で見てみる
このシリーズでは、架空の会社「サンプル工務店」を例にします。内装工事業、社員4名、年商8,000万円、3月決算の会社です。
ある年の損益計算書は、次のようなものでした。
- 売上 8,000万円
- 材料費・外注費 4,800万円(売上の60%)
- 粗利(売上総利益) 3,200万円
- 固定費 2,600万円(給与・家賃・車両費・保険など。このうち減価償却費が100万円)
- 営業利益 600万円 → 税金を約180万円(利益の約30%で概算)引いて、税引後利益 約420万円
420万円の黒字です。ところが、この年の通帳は、次のように動いていました。
- 税引後利益 +420万円
- 減価償却費 +100万円(費用だが、現金は出ていない。理由④)
- 売掛金の増加 −200万円(売上が伸び、入金待ちが増えた。理由①)
- 借入金の返済 −360万円(月30万円×12か月。理由③)
- トラックの購入 −300万円(現金で一括。理由④)
- 現金の増減 −340万円
利益は420万円のプラスなのに、現金は340万円のマイナス。黒字なのに通帳が減る、という現象は、こうして起こります。
▲ 利益から現金への流れを示した図。税引後利益420万円に、現金の出ていかない減価償却費100万円を足し戻すと520万円。そこから売掛金の増加200万円、借入金の返済360万円、トラックの購入300万円を引くと、現金は340万円のマイナスになる。
※ 分かりやすくするため、消費税は税抜きで考え、借入金の利息は省き、税金は当期分を利益から引いた形にしています。実際の資金繰りでは、法人税の納付が翌期になることや、消費税の預かり分も加わります。
4. では、どうすればよいか ― 3つの習慣
利益と現金がずれるのは、会社の仕組みそのものなので、なくすことはできません。できるのは、ずれを先に知っておくことです。そのための習慣を3つ挙げます。
習慣1:月に一度、利益と現金の両方を見る。 試算表(会計事務所が毎月作る、月ごとの損益計算書と貸借対照表)の利益だけ、あるいは通帳の残高だけを見ていると、片方のずれに気づけません。月次の試算表と、月末の現預金残高を、同じ紙に並べて見る。これだけで、「黒字なのに減っている」「赤字なのに増えている」が毎月見えるようになります。
習慣2:現金が減る理由を、先に数える。 借入金の返済、設備の購入、法人税・消費税の納付、賞与。利益とは関係なく現金が出ていく予定は、多くの場合、前もって分かっています。これを1年分のカレンダーに書き出しておくと、「いつ、いくら足りなくなるか」が見えます。
習慣3:手元に置く現金の目安を決める。 「固定費の何か月分を持っておくか」という目安です。目安があれば、現金がそこを下回りそうな時に、借入や支払いの調整を早めに考えられます。この目安の決め方は、第6回でくわしく扱います。
まとめ:第1回のポイント
- 利益は「売上−費用」、現金は「入金−出金」。数えるルールが違うので、黒字と残高は一致しない。
- ずれの理由は5つ。売掛金・在庫(未成工事)・借入金の返済・設備投資・税金の納付時期。
- 借入金の元本返済は費用にならず、設備の購入も買った時には費用にならない。どちらも現金は出る。減価償却費は、費用になるが現金は出ない。
- サンプル工務店は、黒字420万円でも、返済・設備投資・売掛金の増加で現金は340万円減った。
- 対策は、利益と現金を毎月並べて見る・現金が減る予定を先に数える・手元に置く現金の目安を決める、の3つ。
次回は、今回の「理由④」をくわしく見ます。減価償却費は、お金が出ていかない費用。この性質を知ると、「返済に回せるお金はいくらか」が計算できるようになります。
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※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものであり、個別の会計・税務相談に応じるものではありません。計算例の金額は説明のための想定です。会社の状況により取り扱いは異なりますので、実際の判断にあたっては専門家にご相談ください。