決算書を受け取ったとき、損益計算書のどこを見ていますか。いちばん下の「当期純利益」だけを見て、黒字か赤字かを確かめて終わり――という方が多いと思います。
損益計算書には、上から順に5つの利益が並んでいます。それぞれが違うことを語っていて、銀行が重く見るのは、いちばん下の利益ではありません。今回は、5つの利益の意味と、銀行がどこを見ているか、そして「特別損失」の正しい使い方を、サンプル工務店の数字で見ていきます。
1. 損益計算書は「5段の階段」
損益計算書は、売上高から始まって、費用を段階的に引いていく階段の形をしています。段を下りるたびに、違う種類の利益が現れます。
▲ 損益計算書の5段の階段を示した図。売上高8,000万円から売上原価4,800万円を引いて①売上総利益3,200万円、販売費及び一般管理費2,600万円を引いて②営業利益600万円、営業外損益を加減して③経常利益600万円、特別損益を加減して④税引前当期純利益600万円、法人税等180万円を引いて⑤当期純利益420万円。
2. 5つの利益は、それぞれ違うことを語っている
① 売上総利益(粗利)= 商売そのものの力。 売上から、材料費や外注費など「売上に直接ひもづく原価」を引いた残りです。サンプル工務店は3,200万円、売上に対する割合(粗利率)は40%。この率が下がると、どれだけ売っても利益が残りません。粗利率は第5回でくわしく扱います。
※ このシリーズでは説明を簡単にするため、売上に比例する材料費・外注費だけを原価とし、社員の給与は固定費(販売費及び一般管理費)に置いています。実際の建設業の決算書では、現場で働く社員の給与(労務費)も売上原価(完成工事原価)に入るので、自社の粗利率と比べるときはこの違いに注意してください。
② 営業利益 = 本業の力。 粗利から、給与・家賃・車両費・減価償却費など、売上の多少にかかわらずかかる費用(販売費及び一般管理費)を引いた残りです。「本業でいくら儲かったか」を表します。
③ 経常利益 = 毎年繰り返す、会社全体の実力。 営業利益に、本業以外で毎年発生する収益と費用を足し引きしたものです。中小企業で大きいのは、借入金の支払利息。ほかに受取利息や雑収入などが入ります。「借入を含めた、この会社の毎年の稼ぐ力」がここに出ます。
④ 税引前当期純利益 = 臨時の出来事を含めた利益。 経常利益に、その年だけの臨時の損益(特別損益)を足し引きしたものです。古い車両を売った損、災害による損失、役員の退職金などが入ります。
⑤ 当期純利益 = 税金を払って最後に残る利益。 法人税などを引いた残りです。この金額が、貸借対照表の純資産(会社がこれまでに積み上げてきた利益の蓄積。第1回で見たとおり、お金そのものではありません)に加わります。第2回で見た「税引後利益」は、これのことです。
3. 銀行が見るのは「営業利益」と「経常利益」
銀行が融資を審査するとき、重く見るのは営業利益と経常利益です。本業でいくら儲かるか(営業利益)と、借入の利息まで含めて毎年いくら残るか(経常利益)。理由は単純で、銀行が知りたいのは「この会社は、来年も再来年も、返済できるだけ稼げるか」だからです。
当期純利益は、その年だけの臨時の損益(特別損益)が混ざっています。車両を売って利益が出た年、災害で損失が出た年――それは来年には繰り返されません。一方、営業利益は本業の儲け、経常利益はそれに支払利息まで含めた「毎年繰り返す稼ぐ力」です。そのため銀行は、当期純利益はそれほど重く見ず、営業利益と経常利益を見ます。
経営者にとっても同じです。「今年は黒字だった」と言うとき、それが経常利益の黒字なのか、特別利益のおかげの黒字なのかで、意味はまったく違います。経常利益が赤字で、資産を売って当期純利益を黒字にした――という決算書は、銀行には「毎年の実力は赤字の会社」と読まれます。
4. 特別損益の正しい使い方 ― 毎年あるものを特別損失にしない
ここが、今回いちばんお伝えしたいところです。特別損益は「その年だけの、臨時の損益」を入れる場所です。ところが、経常利益を良く見せたいために、毎年発生している費用を特別損失に入れてしまう決算書を時々見かけます。
たとえば、毎年のように発生する貸倒損失(売掛金が回収できなくなった損)、通常の修繕費、売れ残った在庫の評価損。これらを特別損失に入れると、経常利益はその分だけ大きく見えます。しかし銀行は、決算書を数年分並べて見ます。「特別損失」に毎年同じ科目が並んでいれば、本来は経常の費用だと判断して、経常利益に戻して評価し直します。評価は変わらないどころか、「見せ方を工夫する会社」という印象だけが残ります。
▲ 特別損益の仕分けを示した図。左は臨時・一度きりの損益で、特別損益に入れてよいもの(固定資産の売却損益、災害損失、役員退職金、撤退損、過去の決算の修正、設備投資の補助金)。なお、雇用関係の助成金など毎年受け取るものは営業外収益(雑収入)になる。右は毎年発生するもので、特別損失に入れても銀行が経常に戻して評価するもの(毎年の貸倒損失、通常の修繕費、毎期の在庫評価損、毎年の退職金・賞与、毎年の備品・工具の廃棄損、値引き・クレーム対応費)。
逆の失敗もあります。本当に臨時の損失、たとえば台風で倉庫が壊れた修理費を、通常の修繕費として営業費用に入れてしまうと、営業利益と経常利益がその年だけ大きく下がります。銀行には「本業の力が落ちた」と読まれかねません。臨時のものは特別損失に正しく区分することで、経常利益=毎年の実力が守られます。
区分の基準は2つ、「それは来年も起こるか」と「金額が大きいか」です。来年も起こるなら経常。来年は起こらなくても金額が小さいものは営業外(雑収入・雑損失)、金額が大きいものが特別です。迷ったら、決算の前に顧問の会計事務所に確認してください。決算が固まってからでは直せません。
5. 金額ではなく「率」で読むと、変化が見える
5つの利益が分かったら、次は金額を「売上に対する割合」に直して見ます。金額は売上の大きさに引きずられますが、率にすると、去年との違いや、同業との違いが見えてきます。経営者が押さえる率は、3つで足ります。
▲ サンプル工務店の3つの率を示した図。粗利率は3,200÷8,000で40%、営業利益率は600÷8,000で7.5%、経常利益率も7.5%。率にすると、去年の自社や同業の平均と比べられる。
粗利率は、商売の力そのものです。工事業なら、材料費と外注費をどれだけ抑えて受注できているかが出ます。去年40%だったものが今年35%に下がっていれば、売上が同じでも利益は400万円減ります。原因は、値引きか、材料の値上がりか、外注の増加か。率が動いたら、必ず原因を探します。
営業利益率は、固定費を払った後にどれだけ残るか。粗利率が同じでも、人を増やして固定費が増えれば下がります。経常利益率は、それに支払利息を含めたもの。借入が増えて利息がかさむと、営業利益率は変わらないのに経常利益率だけ下がる、という形で現れます。
率の「良い・悪い」は業種で違うので、絶対の目安はありません。大事なのは、去年の自社と比べること。そして、同業の平均(中小企業庁や業界団体が公表している統計)と比べること。この2つの比較で、自社の位置が分かります。
まとめ:第3回のポイント
- 損益計算書は5段の階段。売上総利益(粗利)→ 営業利益 → 経常利益 → 税引前当期純利益 → 当期純利益。
- 粗利は商売の力、営業利益は本業の力、経常利益は借入を含めた毎年の実力、当期純利益は税金を払って最後に残る利益。
- 銀行が重く見るのは営業利益と経常利益。来年も繰り返す稼ぐ力だから。当期純利益は特別損益で動くので、それほど重く見られない。特別利益で作った黒字は評価されない。
- 特別損益は「来年は起こらないもの」だけ。毎年ある費用を特別損失にしても、銀行は経常に戻して見る。
- 逆に、本当に臨時の損失は特別損失に正しく区分する。経常利益=毎年の実力が守られる。
- 見るのは3つの率。粗利率・営業利益率・経常利益率を、去年の自社と同業の平均と比べる。
次回は、もう一枚の決算書、貸借対照表です。「お金をどう集めて、何に使っているか」が一枚で分かる表で、銀行が嫌う科目(役員貸付金など)もここに出てきます。
- 前回:【経営者のための会計講座②】減価償却費は、お金が出ていかない費用|返済の原資はどこから生まれるのか
- 次回:【経営者のための会計講座④】貸借対照表は「お金の集め方と使い道」|自己資本比率・債務超過・役員貸付金
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※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものであり、個別の会計・税務相談に応じるものではありません。計算例の金額は説明のための想定です。損益計算書の区分や科目の扱いは会社の状況により異なりますので、実際の判断にあたっては専門家にご相談ください。