前回(第1回)は、法人税の全体像と、申告までの流れを見ました。法人税は会社のもうけ(課税所得)にかかること、申告は「決算を固める → 課税所得を計算 → 税額を計算 → 申告・納付」という流れで進むことを確認しましたね。
第2回の今回は、その流れのいちばん最初、「決算」と「申告」のつながりに注目します。法人税の申告は、決算書から始まります。決算書のどこを見れば申告をスタートできるのか。ここがわかると、申告全体の見通しが一気に良くなります。
1. 「決算」と「申告」は別のもの
まず、混同しやすい2つの言葉を、はっきり区別しておきましょう。「決算」と「申告」は、別の作業です。
- 決算:1年間の取引を締めて、会社の成績表である「決算書」を作ること。これは会計のルールにもとづく作業です。
- 申告:その決算書をもとに、税金を計算して、税務署に申告書を提出すること。これは税金のルールにもとづく作業です。
つまり、流れとしてはこうです。
決算(会計のルール)→ 決算書ができる → 申告(税金のルール)→ 申告書ができる
決算が先、申告が後。決算書という土台ができて初めて、その上に申告という作業が乗ります。だから、決算書を理解することが、申告を理解する第一歩になるのです。
2. 決算書とは何か ― 2つの主役
「決算書」とひとまとめに呼びますが、その中心になるのは2つの表です。法人税の申告では、この2つが特に重要です。
損益計算書(そんえきけいさんしょ)― 1年間のもうけを表す
損益計算書は、1年間でいくら売り上げて、いくら費用がかかって、いくらもうかったかを表す表です。英語の頭文字から「P/L(ピーエル)」とも呼ばれます。
ざっくり言うと、こういう構造です。
売上 - 費用 = 利益
そして、この表のいちばん下に出てくる「当期純利益(とうきじゅんりえき)」が、法人税の計算のスタート地点になります。ここが今回いちばん大事なポイントです。
貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)― 財産の状態を表す
もう一つが貸借対照表です。これは、決算日の時点で、会社がどんな財産(資産)を持ち、どれだけの借金(負債)があり、差し引きの元手(純資産)がいくらかを表す表です。「B/S(ビーエス)」とも呼ばれます。
資産 = 負債 + 純資産
法人税の申告では、損益計算書ほど直接ではありませんが、貸借対照表も大切な役割を果たします(特に第8回で扱う「別表五(一)」と深く関わります)。今は「財産の一覧表もある」と押さえておけば十分です。
そのほかの決算書類
主役はこの2つですが、決算では、ほかにもいくつかの書類を作ります。名前だけ知っておきましょう。
- 株主資本等変動計算書:純資産(元手)が、1年間でどう増減したかを表す書類。
- 個別注記表:決算書の内容を補足する説明書き。
- 販売費及び一般管理費の明細:費用の内訳を示す書類。
これらも申告書に添付して提出します。中小企業では、会計ソフトが決算と同時に作ってくれることがほとんどなので、自分でゼロから作る場面は多くありません。「決算書とは、これらをまとめた一式のこと」とイメージしておけば大丈夫です。
3. なぜ「当期純利益」が申告のスタート地点なのか
ここが、決算と申告をつなぐ、いちばん大切な部分です。
第1回で、「法人税は利益そのものではなく、課税所得にかかる」「利益と課税所得は少しズレる」とお話ししました。では、その課税所得を、どうやって計算するのでしょうか。
答えは、決算書の当期純利益を出発点にして、そこに税金のルールでの調整を加える、という方法です。
課税所得 = 当期純利益 ± 税務上の調整(申告調整)
なぜ、わざわざ利益を出発点にするのでしょうか。理由はシンプルで、会計の利益と税金の所得は、ほとんど同じだからです。完全に一致はしませんが、大部分は重なっています。
だとすれば、税金の所得を一から計算し直すのは、大変なムダです。それよりも、すでにできあがった「利益」を土台にして、違う部分(ズレ)だけを調整するほうが、はるかに効率的です。この「利益を出発点に、ズレだけ調整する」という考え方が、法人税申告の根っこにあります。
そして、この調整こそが、次回くわしく扱う「申告調整」であり、それを行う書類が「別表四」なのです。
なぜ、会計と税金でズレが生じるのか
「そもそも、どうして会計の利益と税金の所得がズレるのか」。ここを理解しておくと、このあとの学習がぐっと楽になります。受験を考えている方にとっても、土台になる考え方です。
理由は、会計と税金とで、目的が違うからです。
- 会計の目的:会社の本当の姿を、株主や銀行などに正しく伝えること。そのため、将来の損失に備えて費用を多めに見ておく(保守的に考える)といった、経営者の判断が入る余地があります。
- 税金の目的:すべての会社に、公平に課税すること。そのため、会社ごとの判断で税額が変わらないよう、ルールを厳格に決めています。
たとえば、会計では「将来の貸し倒れに備えて費用を計上しておこう」と判断できても、税金のルールでは「実際に貸し倒れが起きるまでは費用と認めない」とすることがあります。会社の判断で税額が変わってしまっては、公平でなくなるからです。
この目的の違いが、利益と所得のズレを生みます。逆に言えば、目的が違うからこそ、両者は完全には一致しないのが当たり前なのです。「ズレているのは間違いではなく、むしろ正常」と考えてください。
4. 決算から申告までの順序
実際の手順として、決算から申告まで、どんな順番で進むのかを整理しておきましょう。
ステップ1:日々の取引を記録する(期中)
1年を通して、売上や経費などの取引を、日々帳簿に記録していきます。クラウド会計を使えば、この部分の多くは自動化できます。
ステップ2:決算整理をする(期末)
事業年度が終わったら、「決算整理」を行います。これは、1年間の数字を正しく締めるための調整作業です。たとえば、減価償却費の計上(第5回で扱います)、在庫の確定、未払い・前払いの整理などです。
ステップ3:決算書を完成させる
決算整理を終えると、損益計算書・貸借対照表などの決算書が完成し、当期純利益が確定します。これが申告のスタート地点です。
ステップ4:申告書を作成する
確定した当期純利益を出発点に、申告調整を行って課税所得を計算し(別表四)、税額を計算して(別表一)、申告書一式を仕上げます。
ステップ5:株主総会で承認 → 提出・納付
会社の決算は、通常、株主総会で承認を受けて正式に確定します。その確定した決算にもとづいて、申告書を税務署へ提出し、税金を納付します。期限は、第1回で見たとおり、決算日の翌日から2か月以内です。
このとき、申告書(別表)だけを出すのではありません。決算書も一緒に添付して提出します。具体的には、損益計算書・貸借対照表・株主資本等変動計算書などの決算書類、そして第1回で触れた勘定科目内訳明細書や法人事業概況説明書を、申告書とセットで提出します。税務署は、これらを照らし合わせて、申告内容を確認するわけです。だからこそ、決算書と申告書の数字は、きちんとつながっている必要があります。
※「決算が確定しないと申告できない」のが原則です。株主総会の都合で2か月以内に決算が固まらない場合に、申告期限を1か月延長する特例があるのは、このためです(納付期限は延長されない点に注意)。
この順序でつまずきやすいところ
実際にこの流れを進めるとき、よくあるつまずきを挙げておきます。
一つめは、決算整理を忘れたまま申告に進んでしまうことです。たとえば減価償却費の計上や、未払いの経費の整理を飛ばすと、利益の金額が本来と変わり、税額も狂います。決算書を「完成」させてから申告に入る、という順序を守ることが大切です。
二つめは、決算書の数字と、申告書の出発点がずれていることです。申告書(別表四)の一行目には、損益計算書の当期純利益を、そのまま正確に書き写します。ここで金額を写し間違えると、その後の計算がすべてずれます。地味ですが、最初の転記こそ慎重に行いましょう。
5. 「税引前」と「税引後」― つまずきやすいポイント
ここで、少し細かいけれど大切な話を一つ。実務でつまずきやすいポイントです。
損益計算書の利益には、実は段階があります。最後のほうに、
- 税引前当期純利益(法人税などを引く前のもうけ)
- 当期純利益(法人税などを引いた後のもうけ)
という2つが出てきます。
ここで「ニワトリと卵」のような問題が起きます。法人税は利益をもとに計算しますが、その法人税を引くと利益が変わってしまう……。実務では、この関係をうまく処理する必要があります。
今の段階では、深く立ち入る必要はありません。「法人税の計算は、税金を引く前の利益(税引前当期純利益)あたりを起点に考える」「実際の申告書(別表四)では、この行き来をうまく調整する仕組みがある」とだけ知っておけば十分です。くわしくは、別表四を扱う第7回で、具体的に解説します。
6. ケーススタディ:サンプル株式会社の決算書を見る
前回登場した、サンプル株式会社で考えてみましょう。
サンプル株式会社(おさらい) – 業種:Web制作業/資本金300万円/3月決算 – 1年間のもうけ(当期純利益):約500万円
この会社は、3月31日に事業年度が終わると、決算整理をして決算書を作ります。損益計算書のいちばん下に、当期純利益として約500万円が並びます。この500万円が、法人税申告のスタート地点です。
前回は、話を単純にするために「課税所得も500万円」として税額を概算しました。しかし実際には、この500万円に申告調整を加えて、課税所得を計算します。
たとえば、サンプル株式会社が、
- 接待交際費を使っていた
- 会計上の減価償却費が、税法の限度を少し超えていた
といった事情があると、利益500万円に調整が入り、課税所得は500万円とは少し違う金額になります。「決算書の利益=そのまま課税所得」ではないということです。
具体的なイメージを少しだけ先取りしてみましょう。仮に、この会社で「税法上は認められない費用(損金にならないもの)」が20万円あったとします。その場合、会計の利益500万円に、その20万円を足し戻して、課税所得は520万円になります。会計では費用として引いていたものを、税金の計算では「なかったこと」にするイメージです。
なぜ足すのか、どんなものが足す対象になるのか――それを一つずつ解き明かすのが、次回のテーマです。今は「利益に少し足したり引いたりして、所得になる」という感覚をつかんでおけば十分です。
次回は、いよいよこの「調整(申告調整)」の中身に踏み込みます。サンプル株式会社の利益500万円が、どのように課税所得へと姿を変えるのか。具体的に見ていきましょう。
まとめ:第2回のポイント
- 「決算」(会計のルールで決算書を作る)と「申告」(税金のルールで申告書を作る)は別の作業。決算が先、申告が後。
- 決算書の主役は、損益計算書(1年のもうけ)と貸借対照表(財産の状態)。
- 法人税の計算は、損益計算書の「当期純利益」を出発点にする。
- 利益と所得はほとんど同じなので、ズレだけを調整する(申告調整)。それが効率的だから。
- 「決算書の利益=課税所得」ではない。利益に調整を加えて所得を出す。
決算と申告のつながりが見えてきました。次回(第3回)は、この講座の心臓部、「課税所得の作り方 ― 申告調整の仕組み」に進みます。利益に「何を、なぜ、足したり引いたりするのか」。法人税のいちばん面白く、いちばん大事なところです。
(記事末尾に小さく) ※本記事は、一般的な情報をわかりやすくまとめたものです。会計・税務の具体的な取り扱いは状況により異なります。正確な情報は国税庁のサイト等でご確認いただくか、専門家へご相談ください。Aube会計事務所は2026年冬の開業を予定しています(公認会計士・税理士登録準備中)。
シリーズ内リンク
- 前の記事:第1回「法人税とは?仕組み・税率・申告の流れ」
- 次の記事:第3回「課税所得の作り方 ― 申告調整の仕組み」(公開後リンク)
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