前回(第7回)は、別表四を学びました。会計の利益から課税所得を計算する、申告書の心臓部でしたね。そして、その別表四の「留保」の項目が、次に学ぶ別表五(一)へつながる――という話で終わりました。
第8回の今回は、その「別表五(一)」を取り上げます。別表四と別表五(一)の連動は、法人税申告の中でも、いちばんの核心です。少し難しく感じるかもしれませんが、ここを理解すると、法人税申告の全体像が、一気に立体的に見えてきます。じっくりいきましょう。
1. 別表五(一)とは ― 税務版の「純資産の管理表」
別表五(一)の正式名称は「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」といいます。少し長いですが、要するに、会社の純資産(元手と、ためてきた利益)を、税金の世界で管理する書類です。
第2回で、決算書には「貸借対照表」があり、会社の財産・借金・純資産を表す、と学びました。別表五(一)は、いわばその税務版。会計の貸借対照表とは別に、「税金のルールで見ると、会社の純資産はいくらか」を管理するのです。
なぜ、そんなものが必要なのでしょうか。それは、これまで学んだ「会計と税金のズレ」が、純資産の部分にも表れるからです。別表四で「留保」とされたズレは、会社の中に残り続けます。その残り続けるズレを、年をまたいで管理しておく場所が、別表五(一)なのです。
「利益積立金額」とは何か
別表五(一)が管理する「利益積立金額」とは、ざっくり言えば、会社が設立以来貯めてきた利益のうち、まだ配当などで外に出していない部分のことです。会社のもうけは、税金を払ったあと、社内にためるか、株主に配当するかのどちらかになります。このうち、社内にためた部分の累積が、利益積立金額です。
税金の世界が、この利益積立金額をきっちり管理するのには、理由があります。会社のもうけには、まず会社の段階で法人税がかかり、それを配当として株主に渡すと、今度は株主の段階でも税金がかかります(二段階の課税)。「どこまでが課税済みの利益か」をはっきりさせておかないと、この仕組みが正しく回りません。だから税務では、純資産を「元手(資本金等)」と「ためた利益(利益積立金額)」に分けて、厳密に管理しているのです。別表五(一)は、その管理台帳というわけです。
2. なぜ別表四と別表五(一)はつながるのか
ここが、今回いちばん大事なところです。
第7回で、別表四の調整には「留保」と「社外流出」の2種類がある、と学びました。この2つは、別表五(一)との関係で、はっきり違う運命をたどります。
- 留保:会社の中に残るズレ。別表五(一)に引き継がれ、翌期へ繰り越される。
- 社外流出:会社の外に出ていったズレ。別表五(一)には引き継がれない(連動しない)。
なぜ、こう分かれるのでしょうか。具体例で考えましょう。
留保の例:減価償却の超過額 会計で多めに減価償却して、税法の限度を10万円超えたとします。これは今年は損金になりません(加算・留保)。でも、この10万円は、将来の年度で損金として認められます。つまり、「まだ使っていない損金が、会社の中に10万円残っている」状態です。これを翌期へ繰り越して覚えておく必要があるので、別表五(一)に記録します。
社外流出の例:交際費の損金不算入額 交際費が限度を超えて、20万円が損金になりませんでした(加算・社外流出)。このお金は、すでに接待で使ってしまい、会社の外に出ています。将来も損金になりません。会社の中には、何も残っていないのです。だから、翌期へ繰り越すものがなく、別表五(一)には記録しません。
この違いが、「留保は別表五(一)へ、社外流出は行かない」の正体です。会社の中にズレが残るかどうか――それが分かれ目なのです。

別表四と別表五(一)の連動図。別表四の「留保」(法人税・住民税80万円・減価償却の超過額10万円)が別表五(一)へ引き継がれ(法人税・住民税は納税充当金として)、「社外流出」(受取配当)は引き継がれないことを示す図。
3. 別表五(一)の構造 ― 4つの列
別表五(一)は、項目ごとに、横に4つの列が並んでいます。これは「1年間で、その項目がどう増減したか」を表します。
① 期首現在利益積立金額 ← 期の初めの残高(前期から繰り越されたもの)
② 当期の減 ← 今期に減った分
③ 当期の増 ← 今期に増えた分
④ 差引翌期首現在利益積立金額 ← 期末の残高(翌期へ繰り越すもの)
計算はシンプルで、①-②+③=④。期首の残高から、減った分を引き、増えた分を足すと、期末の残高(=翌期の期首)になります。預金通帳のように、「前の残高+今年の増減=今の残高」という流れです。
そして、ここで別表四とつながります。
- 別表四で「加算・留保」とした項目は、別表五(一)の「増(③)」に同じ金額を書く。
- 別表四で「減算・留保」とした項目は、別表五(一)の「減(②)」に書く。
たとえば、別表四で減価償却の超過額10万円を「加算・留保」としたら、別表五(一)の「増」に10万円と書きます。こうして、別表四で生じた留保のズレが、別表五(一)に積み上がり、翌期へ繰り越されていくのです。
逆のパターンも見ておきましょう。数年後、その資産の償却が進み、過去に損金にできなかった10万円が、今度は損金として認められる年が来たとします。その年は、別表四で「減算・留保」として10万円を引きます。すると、別表五(一)では「減」の列に10万円が記録され、繰り越されてきた残高が消えていきます。こうして、一度発生したズレは、別表五(一)の上で、発生から消滅まで、きちんと追跡されるのです。「増」で生まれ、「減」で消える――この往復が、別表四と別表五(一)の連動の本質です。
4. 「繰越損益金」と「納税充当金」 ― 中小企業で必ず出る2項目
別表五(一)には、たくさんの記入欄がありますが、中小企業では、上半分はほとんど空欄になります。実際に必ず書くのは、主に次の2つです。
繰越損益金
これは、会社がこれまでためてきた利益のことです。会計の貸借対照表にある「繰越利益剰余金」と連動します。前期末の残高を期首(①)に、当期末の残高を期末(④)に書きます。会社の利益が積み上がっていく様子が、ここに表れます。
納税充当金
これは、会計でいう「未払法人税等」のことです。決算で「これから払う税金」を未払いとして計上した分が、ここに記録されます。前期末・当期末の残高を、それぞれ書きます。
この2つは、決算書(貸借対照表)の数字をそのまま転記するだけなので、中小企業の別表五(一)は、見た目ほど難しくありません。「上半分は空欄、下のほうの繰越損益金と納税充当金を決算書から写す」――これが、中小企業の別表五(一)の基本形です。
なお、繰越損益金の欄は、ほかの項目と少し書き方が違い、「洗替え記載」という独特の方法をとります。具体的には、期首の残高をいったん「減」の列に書いて消し、当期末の残高を「増」の列に新しく書く、という形です。少しややこしいですが、要するに「前期末の利益を一度リセットして、当期末の利益に置きかえる」というイメージです。細かい書き方は実務の記事で扱いますが、「繰越損益金だけは書き方が特殊」と知っておくと、いざ書くときに戸惑いません。
もう一つの明細 ― 資本金等の額
別表五(一)には、利益積立金額(Ⅰ)のほかに、「資本金等の額」(Ⅱ)という、もう一つの明細があります。これは、株主が払い込んだ「元手」の部分を管理するものです。資本金や資本準備金などが該当します。中小企業では、増資などがなければ、ここはあまり動きません。利益積立金額が「ためた利益」、資本金等が「元手」――この2つを分けて管理しているのが、別表五(一)の全体像です。
5. 別表四と別表五(一)の「検算」
別表四と別表五(一)が正しくつながっているかは、ある関係で確認できます。これを知っておくと、間違いに気づけます。
ざっくり言うと、別表四の「留保」の合計が、別表五(一)の純資産の増減と、つじつまが合うようになっています。留保の項目は、必ず両方の書類に同じ金額で表れるので、片方だけ書いて、もう片方を忘れると、数字が合わなくなります。
逆に言えば、この2つの書類の数字が合っていれば、申告調整が正しくできている、という一つの証明になります。だからこそ、別表四と別表五(一)はセットで、申告の正確さを支える「車の両輪」なのです。会計ソフトを使えば自動で連動・検算してくれますが、その裏でこういう仕組みが動いている、と知っておくと、数字の意味がぐっと分かります。
別表五(一)は、毎年つながっていく
別表五(一)のもう一つの大切な性質は、毎年、前期から当期へとつながっていくことです。今期の「差引翌期首現在(④)」の金額は、そのまま翌期の「期首現在(①)」になります。バトンのように、毎年引き継がれていくのです。
だから、別表五(一)を作るときは、必ず前期の別表五(一)を手元に置いて、その期末の数字を、今期の期首に正しく引き継ぐ必要があります。ここがずれると、何年にもわたって数字が合わなくなってしまいます。「去年の終わりが、今年の始まり」――この連続性が、ズレを正しく管理し続けるための、大切な仕組みなのです。自分で申告する場合は、前期の申告書を必ず保管しておきましょう。
6. ケーススタディ:サンプル株式会社の別表五(一)
サンプル株式会社で考えてみましょう。
サンプル株式会社(おさらい) – Web制作業/資本金300万円(中小企業)/3月決算
第7回で見た、この会社の別表四の加算・減算は、次のとおりでした。
- 損金にならない法人税・住民税 80万円(留保)
- 減価償却の超過額 10万円(留保)
- 受取配当の益金不算入 5万円(社外流出)
このうち、別表五(一)に引き継がれるのは、「留保」の項目です。減価償却の超過額10万円は利益積立金額の欄に、法人税・住民税80万円は納税充当金(未払法人税等)の欄に、それぞれ記録され、翌期へ繰り越されます。一方、受取配当(5万円・社外流出)は、会社の中に残らないので、別表五(一)には行きません。
そこで、別表五(一)には、
- 減価償却超過額:当期の「増(③)」に10万円 → 翌期首(④)へ10万円繰り越し
と記録されます。この10万円は、将来、その資産の減価償却が進んで、損金として認められる年に、別表四で「減算・留保」として戻され、別表五(一)の「減」で消えていきます。ズレが発生し、繰り越され、いつか解消する――その一生が、別表四と別表五(一)の連動で、きちんと記録・管理されているわけです。
これが、法人税申告の核心です。単年度の所得計算(別表四)だけでなく、ズレを年をまたいで管理する仕組み(別表五(一))があるからこそ、長い目で見て、公平で正確な課税ができるのです。
もし、別表五(一)という仕組みがなかったら、どうなるでしょうか。減価償却の超過額10万円は、今年は損金になりませんでした。でも、それを記録しておかなければ、将来その損金を使える年が来ても、「そういえば、まだ使っていない損金が10万円あったな」と気づけません。結果、本来は損金にできたはずの10万円を、永久に取りこぼしてしまいます。別表五(一)は、こうした取りこぼしを防ぎ、「いつか戻るズレ」を確実に将来へつなぐための、大切な記録なのです。地味な書類に見えて、納税者の権利を守る役割も果たしている、というわけです。
まとめ:第8回のポイント
- 別表五(一)は「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」。税務版の純資産の管理表。
- 別表四の「留保」は別表五(一)に引き継がれる。「社外流出」は引き継がれない。
- 分かれ目は「会社の中にズレが残るかどうか」(留保は残る、社外流出は出ていった)。
- 構造は4列(期首①・減②・増③・翌期首④)。①-②+③=④で翌期へ繰り越す。
- 中小企業は上半分ほぼ空欄。必ず書くのは繰越損益金(繰越利益剰余金)と納税充当金(未払法人税等)。
- 別表四と別表五(一)の数字が合うことが、申告調整が正しい証明になる。
別表四と別表五(一)の連動――法人税申告のいちばんの核心を、越えました。ここまで来れば、申告書の骨格はほぼ理解できています。次回(第9回)は、計算した課税所得から、いよいよ「法人税額そのもの」を計算します。税率の適用、そして税金を直接減らす「税額控除」。申告書の表紙「別表一」を扱います。
- 前回:【法人税の基礎講座⑦】別表四とは?利益から所得を計算する仕組み
- 次回:【法人税の基礎講座⑨】法人税額の計算と税額控除|別表一をわかりやすく
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別表五(一)についてさらに詳しく知りたい方は、こちらもどうぞ。
- 【法人税の実務講座⑤】別表五(一)の書き方・記入例をわかりやすく解説
- 【法人税の理論講座④】留保と社外流出の違いをわかりやすく解説
※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものです。会計・税務の具体的な取り扱いは状況により異なります。正確な情報は国税庁のサイト等でご確認いただくか、専門家へご相談ください。