最終回です。決算日を過ぎると、取引そのものはもう動かせません。しかし決算日の前なら、できることは少なくありません。良く見せるための作為ではなく、第9回で見た「正しく見せる」ための準備です。このシリーズで扱ってきたことを、決算日の2か月前から社長が自分で確かめられる12のチェックリストにまとめました。会計事務所に任せきりにせず、「これは自分で見た」と言える状態で決算を迎えるためのものです。
▲ 決算前の12のチェックを示した図。資産を実態に合わせる(棚卸・未成工事・売掛金と貸倒・役員貸付金と仮払金)、費用を使った期に入れる(未払費用・前払費用・減価償却・売上の期ズレ)、見え方を整える(特別損益の区分・役員報酬と決算賞与)、税金と資金を先に見る(消費税と納税資金・来期の計画)。
順に見ていきます。ひとつひとつは、このシリーズのどこかで出てきた話です。(第◯回)とあるところは、その回に戻ると詳しく書いてあります。
1. 資産を「実態」に合わせる(チェック1〜4)
貸借対照表の資産は、放置すると実態より大きくなります。価値のない在庫、終わった工事の原価、回収できない売掛金、社長への貸付金。どれも「ある」ことになっているだけで、お金にはなりません。銀行はこれを見つければ差し引いて見ます(第9回)。先に自分で差し引いておくのが、このブロックです。
- 1. 棚卸。 決算日に在庫を実際に数えます。数えた結果が帳簿と違えば、実際の数に合わせます。使えなくなった材料、何年も動かない在庫は、決算日までに処分(廃棄)して費用にします。処分せずに帳簿の金額だけ下げるのは、税務上認められる場合が限られるので、会計事務所に相談してください。価値のない在庫を帳簿に残したままだと、その分だけ利益が大きく出て、税金も増えます(第7回)。
- 2. 未成工事支出金。 完成して引き渡した工事の原価が「未成工事支出金」に残っていないか。完成した工事は、売上と原価の両方をその期に計上します。残っていると、原価が翌期にずれ、今期の利益が過大になります。進行中の工事の原価だけが、ここに残っていてよい金額です(第7回)。逆に、進行中の工事の材料費や外注費を今期の費用に落としていると、利益が小さく出ます。これは税務調査で指摘されやすいところなので、ここも確かめます。
- 3. 売掛金・貸倒。 売掛金の一覧を取引先ごとに見て、入金済みなのに消えていないものがないか照合します。回収の見込みがないものは、貸倒として処理します。ただし、税務上費用(損金)にできるのは、相手が倒産した、取引をやめてから1年以上たった、など条件がそろったものだけなので、会計事務所と一緒に判断してください。1年以上動いていない売掛金は、残しておいても銀行が差し引きます(第9回)。
- 4. 役員貸付金・仮払金。 決算日までに精算します。社長が会社から借りている形の残高は、立替経費を精算する、来期の役員報酬を見直してその中から返す計画を立てる、で小さくします。役員への臨時の賞与で返すと、その賞与は会社の費用にならず、社長の所得税もかかります。仮払金は中身を確かめて正しい科目に振り替えます。残ったままだと、銀行は純資産から引いて評価します(第4回・第9回)。
2. 費用を「使った期」に入れる(チェック5〜8)
損益計算書の費用は、「払った期」ではなく「使った期」に入れます(第1回の発生主義)。決算のときに崩れやすいのは、期をまたぐ費用と売上です。ここがずれると、利益が本当の姿より大きくも小さくもなります。
- 5. 未払費用。 3月決算なら、3月に使った電気・携帯・外注・残業代などで、請求や支払いが4月になるものは、3月の費用に入れます(未払費用・未払金)。入れ忘れると今期の利益が大きく出て、税金も多くなります。逆に、4月に使う分を3月に入れないこと。
- 6. 前払費用。 1年分まとめて払った保険料や家賃、保守料のうち、来期の分は「前払費用」として資産に残します。ただし、支払った日から1年以内に受けるサービスの前払いで、毎年同じやり方を続けるなら、払った期の費用にしてよい扱いもあります(短期前払費用)。どちらにするかは会計事務所と決めて、毎年変えないことが大切です。
- 7. 減価償却。 全額を計上します。償却を止めて利益を作る会社がありますが、銀行は償却費を引き直して評価します(第2回・第9回)。年度の途中で買った設備は、使い始めた月からの月割りです。なお、40万円未満の備品や工具は、青色申告の中小企業なら、買って使い始めた期に全額費用にできます(年に合計300万円まで。令和8年4月1日以後に取得したものから、それまでの30万円未満が40万円未満に引き上げ。令和11年3月31日までの取得が対象。国税庁タックスアンサー No.5408)。年度末に必要な道具を買うなら、この枠を知っておくと判断が変わります。ただし、決算日までに使い始めていることが条件で、買って箱のまま置いてあるものは対象になりません。
- 8. 売上の期ズレ。 月次でも決算でも、基準は「完成して引き渡した期」です(第10回)。3月末に完成した工事を4月に請求しても、売上は3月の期。逆に、4月に完成する工事を3月に前倒しで請求しても、3月の売上にはなりません。売上の期ズレは、税務調査で必ずと言ってよいほど見られるところです。
▲ 売上はどの期に入るかを示した図。3月決算で、3月25日に完成・引き渡し、4月5日に請求、5月31日に入金した工事の売上は、完成・引き渡しの3月の期(今期)に入る。請求日や入金日では決まらない。
3. 利益の「見え方」を整える(チェック9〜10)
9は数字を変える話ではなく、同じ数字をどの行に置くかの話で、置き方で銀行の評価が変わります。10は、決め方と時期で費用になるかどうかが変わり、税金に直接響きます。
- 9. 特別損益の区分。 毎年ある費用を特別損失に入れていないか。特別損益に入れてよいのは、設備の売却損、災害の損失など臨時のものだけです。毎年ある修繕費や廃棄損を特別損失に入れても、銀行は経常利益に戻して評価します(第3回・第9回)。逆に、本当に臨時の損失を営業費用に入れると、商売の力が弱く見えます。区分は正直に。
- 10. 役員報酬・決算賞与。 役員報酬は、期の途中で増やしても、増やした分は費用(損金)になりません(毎月同じ額を払うのが原則です)。変えるなら、期首から3か月以内に決めます。業績が大きく悪化したときの減額など、例外はあります。社員への決算賞与は、利益が出た期に出すなら、決算日までに全員へ各人の金額を通知し、決算日の翌日から1か月以内に支払い、その期に費用として計上する。この3つがそろえば、支払いが翌期でも今期の費用になります(国税庁タックスアンサー No.5350)。賃上げ促進税制の給与総額にも含まれます(第11回)。
4. 税金と資金を先に見る(チェック11〜12)
- 11. 消費税と納税資金。 消費税は、お客様から預かって国に納めるお金で、会社の売上ではありません。決算から2か月後に、法人税等と一緒に払います。サンプル工務店なら、法人税等180万円と消費税約250万円(売上の消費税800万円−仕入れや経費の消費税550万円。インボイス登録をしていない協力業者への外注費は、消費税の一部しか引けません)で、1年分で合わせて約430万円。中間納付がなければ、現預金900万円の半分近くが決算の2か月後に出ていきます。ただし、この規模の会社は前年の税額を基にした中間納付が期の途中(3月決算なら11月)にあるのが普通で、その場合は決算の2か月後に払うのは残りの約半分です。資金繰り表(第6回)に必ず入れてください。消費税分を毎月別の口座に移しておくと、決算のときに慌てません。
- 12. 来期の計画。 決算の数字が固まるのを待たずに、来期の計画を1枚にします。売上の目標、粗利率、固定費、必要な利益。必要な利益は、返済原資(第8回)と手元に残したい現預金(第6回)から逆算します。損益分岐点(第5回)と人件費(第11回)も、この1枚で見直します。決算は締めくくりではなく、来期の計画の入口です。
▲ 決算の2か月後に出ていくお金を示した図。決算日の現預金900万円から、法人税等180万円と消費税約250万円の合計約430万円を納税すると(中間納付がない場合)、残る現預金は470万円。固定費の月数で見ると、900万円は4.1か月分だが、納税後は2.2か月分になる。
第6回で「現預金は固定費の3〜6か月分」と書きました。この目安は、納税のあとの残高で見ます。決算日に4か月分あっても、2か月後に2か月分まで減るなら、その間に大きな支払いや入金の遅れが重なると苦しくなります。納税の月が見えているからこそ、前もって手が打てます。
まとめ:決算の前に、社長が自分で見る12のこと
- 資産を実態に:棚卸を数える/完成した工事を未成工事支出金から出す/回収できない売掛金は貸倒に/役員貸付金・仮払金を精算する。
- 費用を使った期に:未払費用を入れる/前払費用を分ける/減価償却は全額(40万円未満の備品は全額費用にできる枠)/売上は完成・引き渡しの期に。
- 見え方を整える:特別損益は臨時のものだけ/役員報酬は期の途中で変えない。決算賞与は決算日までの通知・1か月以内の支払・今期の費用計上の3つ。
- 税金と資金を先に:法人税等と消費税を資金繰り表に入れ、納税後の残高で月数を見る/来期の計画を1枚にする。
どれも「良く見せる」ためではなく、「正しく見せる」ための作業です。正しい決算書は、銀行に対しても、税務署に対しても、そして社長自身にとっても、いちばん強い資料になります。
最後に。数字は社長を縛るものではなく、社長の判断を支えるものです。年に1回の決算書を見て驚くのではなく、毎月の試算表で小さな異変に気づき、決算の前に正しく整え、来期の計画につなげる。この循環ができれば、会計は経営の道具になります。12回、お読みいただきありがとうございました。
シリーズ全12回
- 【経営者のための会計講座①】利益が出ているのに、お金が残らないのはなぜか|利益と現金の違いをわかりやすく解説
- 【経営者のための会計講座②】減価償却費は、お金が出ていかない費用|返済の原資はどこから生まれるのか
- 【経営者のための会計講座③】損益計算書は「5つの利益」で読む|銀行が見るのは営業利益と経常利益
- 【経営者のための会計講座④】貸借対照表は「お金の集め方と使い道」|自己資本比率・債務超過・役員貸付金
- 【経営者のための会計講座⑤】粗利率と損益分岐点|いくら売れば足りるのかを計算する
- 【経営者のための会計講座⑥】現預金は「固定費の何か月分」で見る|手元資金の目安と資金繰り表
- 【経営者のための会計講座⑦】運転資金とは何か|回収サイト・支払サイトと必要運転資金
- 【経営者のための会計講座⑧】借入は悪ではない|返済原資・債務償還年数・借りるタイミング
- 【経営者のための会計講座⑨】銀行は決算書のここを見る|融資に有利になりやすいポイント
- 【経営者のための会計講座⑩】月次決算と試算表の見方|締めは早く、発生主義で
- 【経営者のための会計講座⑪】人件費の見方|労働分配率と一人当たり粗利
- 【経営者のための会計講座⑫】決算前にできること|12のチェックリスト(この記事)
- 番外編:【経営者のための会計講座 番外編】事業計画はなぜ必要か|予想ではなく、必要な数字の逆算
※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものであり、個別の会計・税務相談に応じるものではありません。計算例の金額は説明のための想定です。少額減価償却資産の特例や決算賞与の取り扱いは、2026年10月時点の国税庁の公表資料にもとづいており、今後の税制改正で変わることがあります。実際の決算の処理にあたっては専門家にご相談ください。