「法人税の申告を、自分でやってみたい」「税理士に任せるにしても、中身を理解しておきたい」。そう考える経営者の方は、少なくありません。
この「法人税の基礎講座」は、最終回まで読み進めれば、シンプルな中小企業の法人税申告のしくみと流れを、ひととおり理解できるようになることをゴールにしたシリーズです。専門用語はそのつど噛み砕き、具体的な数字や、ある架空の会社の例を使いながら、一歩ずつ進んでいきます。
第1回の今回は、いきなり細かい計算には入りません。まず、法人税とは何か、そして申告までの全体の流れを掴むことを目標にします。全体像が見えていれば、これから始まる長い道のりでも、自分が今どこを学んでいるのかを見失わずに進めます。
それでは、始めましょう。
1. そもそも「法人税」とは何か
法人税を一言でいうと、会社(法人)が1年間で儲けた利益に対してかかる税金です。
私たち個人が、給料や事業の収入に応じて「所得税」を払うように、会社は、事業活動で儲けた利益に応じて「法人税」を払います。個人にかかるのが所得税、会社にかかるのが法人税。まずはこのイメージをしっかり持っておきましょう。
そして、法人税は国に納める税金(国税)です。会社にはこのあと見るように、地方に納める税金もありますが、その中心になるのが法人税です。
誰が払うのか
法人税を払うのは、その名のとおり「法人」、つまり会社などの組織です。代表的なのは、株式会社・合同会社(LLC)・一般社団法人など。
一方、個人事業主(フリーランスや個人商店)は法人ではないので、法人税ではなく所得税を払います。「会社を作る(法人化する)と税金は得になるのか」という疑問は多くの方が持ちますが、これは利益の大きさや社会保険料などによって変わるため、一概には言えません。この比較は、シリーズの中であらためて扱います。
2. 法人税は「何に」かかるのか ― いちばん大事な考え方
ここが、法人税を理解するうえで最も大切なポイントです。一度しっかり掴めば、このあとがぐっと楽になります。
法人税は、会社の「売上」にかかるのではありません。また、会計で計算した「利益」とも、実は少し違います。法人税がかかるのは、「課税所得」と呼ばれる金額です。
まずは「儲け」にかかる、というイメージ
大づかみに言えば、法人税は会社の「儲け」にかかります。ごく単純化すると、こうです。
儲け = 入ってきたお金(収入) - 出ていったお金(費用)
たとえば、1年間で1,000万円の売上があり、そのために600万円の費用がかかったとします。儲けは400万円。この400万円に対して法人税がかかる——これが基本のイメージです。売上の1,000万円全てにかかるのではない、という点がまず大事です。
「利益」と「課税所得」は、少しズレる
ただし、もう少し正確に言うと、法人税がかかるのは、会計で計算した「利益」そのものではありません。
会社が決算で計算する「利益」と、税金の計算に使う「課税所得」は、ほとんど同じですが、少しだけズレます。これは、「会計のルール」と「税金のルール」が、似ているけれど完全には一致しないためです。
たとえば、会計では費用になるのに税金の計算では費用と認められないもの、その逆のものが、いくつかあります。そこで、利益にいくつかの調整を加えて、課税所得を計算します。
課税所得 = 会計の利益 ± 税務上の調整(申告調整)
法人税 = 課税所得 × 税率
この「会計と税務のズレ」こそ、法人税の心臓部です。そして、この調整を実際に行うのが、のちほど出てくる「別表四」という書類です。今はまだ、「利益と課税所得は、似ているけれど少し違う。その差を調整することが、法人税計算の中心なのだ」と理解できれば十分です。詳しくは第3回・第7回でじっくり扱います。
3. 税率はどれくらいか
課税所得が分かれば、それに税率をかけて法人税額を計算します。税率の基本を、ここで押さえておきましょう。
法人税の基本税率は23.2%です。ただし、資本金1億円以下の中小企業には、税負担を軽くする優遇措置があります。
- 年800万円以下の儲けの部分 … 15%(軽減税率)
- 年800万円を超える部分 … 23.2%
たとえば中小企業で、課税所得が1,000万円だった場合は、
- 800万円までの部分:800万円 × 15% = 120万円
- 800万円を超える部分:200万円 × 23.2% = 約46万円
- 合計:約166万円
というイメージです(実際にはここから、さらに各種の控除などが関わります。第9回で扱います)。
※この15%の軽減税率は、期限のある優遇措置で、現時点では令和9年(2027年)3月末までに開始する事業年度まで延長されています。また、2026年4月以後に始まる事業年度からは「防衛特別法人税」という新しい税が加わりますが、年500万円の控除があるため、多くの中小企業では実質的な負担は生じないとされています。税率や期限は改正されることがあるため、最新の情報は国税庁のサイトでご確認ください。
4. 法人税だけじゃない ― 会社が払う税金の全体像
ここで大事な事実を一つ。会社が利益に対して払う税金は、法人税だけではありません。実は、いくつかの税金がセットになっています。
- 法人税(国に納める)
- 法人住民税(都道府県・市区町村に納める)
- 法人事業税(都道府県に納める)
この3つをまとめて、ざっくり「法人にかかる税金」と呼びます。「結局、儲けの何割が税金になるの?」という問いの答えにあたるのが「実効税率」という考え方で、これら全部を含めた実質的な税負担の割合を指します。中小企業の場合、おおよそ30〜35%程度が目安です。つまり「儲けの3分の1くらいが税金」というのが、ざっくりした感覚です。
法人税・住民税・事業税の違いは、第11回で詳しく整理します。今は「国の法人税のほかに、地方の住民税・事業税もある」と覚えておきましょう。
赤字でも払う税金がある
意外と知られていないのが、赤字(利益がマイナス)の年でも、払う必要がある税金があることです。
法人税は「儲け」にかかるので、赤字なら基本的に0円です。しかし、法人住民税には「均等割」という部分があり、これは利益が出ていなくても、会社が存在しているだけでかかります。金額は会社の規模や所在地で変わりますが、最も小さい規模の会社でも年7万円程度からが目安です。「赤字なら税金はゼロ」ではない、という点は覚えておきましょう。
5. 決算から申告・納付まで ― 全体の流れ
法人税の申告が、どんな流れで進むのか。ここで全体の流れを整理しておきます。この流れが、シリーズ全体を通して学んでいく骨組みになります。

法人税 申告の全体フロー図。STEP1 決算を固める、STEP2 課税所得を計算する(別表四)、STEP3 法人税額を計算する(別表一)、STEP4 申告・納付する、の4ステップ。申告・納付は決算日の翌日から2か月以内。
ステップ1:決算を確定させる
法人税の申告は、決算が確定することから始まります。1年間の取引を締めて、決算書(貸借対照表・損益計算書など)を作り上げる。これが出発点です。決算書の「利益」が、法人税計算のスタート地点になります。
ステップ2:利益から課税所得を計算する(申告調整)
決算書の利益に、税務上の調整(申告調整)を加えて、課税所得を計算します。この調整を行う中心の書類が「別表四」です。さらに、その調整結果を会社の純資産で管理するのが「別表五(一)」です。この2つの関係が、法人税申告の核心になります。
ステップ3:税額を計算する
課税所得に税率をかけ、各種の控除を差し引いて、納める法人税額を確定させます。この計算をまとめるのが「別表一」、いわば申告書の表紙にあたる書類です。
ステップ4:申告書を提出し、納付する
完成した申告書一式を、税務署に提出します。あわせて、地方税(住民税・事業税)の申告書も、都道府県・市区町村に提出します。そして、計算した税額を納付します。
いつまでに? ― 期限は「決算日の翌日から2か月以内」
法人税の申告と納付の期限は、原則として事業年度終了の日(決算日)の翌日から2か月以内です。たとえば3月31日が決算日なら、5月31日が期限です。
- 申告と納付は、同じ期限(5月31日なら、提出も納税も5月31日まで)。
- 設立1年目は、最初の決算日の翌日から2か月以内に、初めての申告・納付を行います。
- 前期の法人税額が一定額(20万円)を超えると、事業年度の途中で「中間申告」も必要になります。
※株主総会の都合などで決算が2か月以内に固まらない場合、申告期限を1か月延長できる特例があります(事前の申請が必要)。ただし、延長されるのは申告期限だけで、納付期限は延長されない点に注意が必要です。
申告のときに作る・出す書類
申告では、いくつかの書類をセットで作って提出します。今は「こういう書類があるんだ」と名前を知っておくだけで十分です。シリーズを通して、一つずつ作れるようになります。
- 法人税申告書(別表):所得や税額を計算する中心の書類。別表一、別表四、別表五(一)などがあります。
- 決算書:貸借対照表・損益計算書など。申告のスタート地点になります。
- 勘定科目内訳明細書:預金や売掛金などの中身を、取引先別に明らかにする書類。
- 法人事業概況説明書:会社の事業内容や従業員数などをまとめた書類。
- 地方税の申告書:住民税・事業税のための書類。
「別表」という言葉が何度も出てきますが、これは法人税申告書を構成する、いわば「計算用紙のセット」だと思ってください。種類が多く見えますが、中小企業が使うものは限られています。シリーズの中で、必要なものから順に解説します。
「青色申告」を選んでおく
法人税には「青色申告」という制度があります。これは、きちんと帳簿をつけることを前提に、さまざまな特典が受けられる申告方法です。たとえば、赤字を翌年以降に繰り越せる(第12回で扱います)といった大きなメリットがあります。
青色申告をするには、事前に税務署へ申請して承認を受ける必要があります。法人の場合、ほとんどがこの青色申告を選びます。この講座も、青色申告であることを前提に進めていきます。
自分で出す方法 ― 紙とe-Tax
完成した申告書は、紙で税務署に提出するほか、インターネットで提出する「e-Tax(イータックス)」という方法があります。近年は電子申告が主流で、一定の法人には義務づけられています。具体的な使い方は第13回で扱いますので、今は「ネットで申告できる仕組みがある」と知っておけば大丈夫です。
6. このシリーズで学ぶこと(全13回の流れ)
ここまでが、法人税の全体像です。最後に、このシリーズ全13回で、何をどの順番で学んでいくのかを示しておきます。今は個々の内容が分からなくても問題ありません。「こういう順序で理解を積み上げていくのか」と、おおまかに掴んでいただければ十分です。
- 法人税の全体像と、申告までの流れ(今回)
- 決算書から申告へ ― 決算と申告の関係
- 課税所得の作り方 ― 申告調整の仕組み
- 益金と損金の基本
- 減価償却(別表十六)
- 役員給与・交際費など、注意が必要な損金
- 別表四の書き方 ― 利益から所得へ
- 別表五(一)と、別表四との連動
- 税額の計算と税額控除(別表一)
- 別表五(二)・別表二など、主要な別表
- 地方税(住民税・事業税)の申告
- 赤字・欠損金の扱い(別表七)と、消費税との関係
- 申告と納付の実務(e-Tax・スケジュール)と総まとめ
第1〜4回で土台をつくり、第5〜6回で実務に多い論点を押さえ、第7〜10回で申告書(別表)を組み立て、第11〜12回で周辺を固め、第13回で一連の流れを通しで完成させます。
7. ケーススタディ:サンプル株式会社で考えてみる
この講座では、理解を深めるために、ある架空の会社の申告を、回を追って一緒に進めていきます。今回学んだ全体像を、さっそくこの会社に当てはめてみましょう。
サンプル株式会社 – 業種:Web制作業 – 資本金:300万円(資本金1億円以下なので「中小企業」にあたる) – 事業年度:4月1日〜翌3月31日(3月決算) – 1年間の儲け(会計上の利益):約500万円
この会社は、いつ・いくらくらい納めることになる?
今回の知識だけで、ざっくり見通しを立ててみます。
① いつ申告・納付するか
3月決算なので、決算日は3月31日。申告・納付の期限は、その翌日から2か月以内、つまり5月31日です。
② 法人税はいくらくらいか
ここで一つ注意が必要です。法人税がかかるのは、会計の「利益」そのものではなく、「課税所得」でした。利益500万円に申告調整を加えて課税所得を出すのが本来の手順です(この調整は第3回以降で扱います)。
今回は全体像を掴むのが目的なので、いったん「調整がなく、課税所得も500万円だった」と単純化して、税額を計算してみます。
課税所得500万円は、中小企業の軽減税率の対象となる「800万円以下」におさまります。したがって、
500万円 × 15% = 75万円
法人税は、おおよそ75万円と見積もれます。
③ 法人税だけではなかった
さらに、ここに法人住民税・法人事業税が加わります。実効税率(約30〜35%)でざっくり捉えると、
500万円 × 約30〜35% = 約150〜175万円
法人税・住民税・事業税を合わせた全体では、おおよそ150〜175万円ほどの税負担になる、という見通しが立ちます。
このように、今回の知識だけでも、「いつ・どれくらい納めるか」のおおまかな見通しは立てられます。次回からは、この概算を、より正確な金額へと近づけていきます。最終回には、サンプル株式会社の申告書が完成しているはずです。あなたの会社の数字に置き換えて読めば、そのまま自社の申告の練習になります。
※ここでの金額は、全体像を掴むために大きく単純化した概算です。実際には申告調整や各種控除、所在地による違いなどで変わります。正確な計算は、次回以降で順に学んでいきます。
まとめ:第1回のポイント
第1回として、法人税の全体像と、申告までの流れを見てきました。
- 法人税は、会社の儲けにかかる、国の税金。基本税率は23.2%、中小企業は800万円以下が15%。
- かかるのは売上ではなく、儲け(正確には「課税所得」)。
- 会計の「利益」と税金の「課税所得」は少しズレる。その差を調整するのが法人税計算の中心となる(別表四)。
- 法人税のほかに住民税・事業税もあり、合わせた実効税率は約30〜35%。赤字でも均等割(年7万円程度〜)はかかる。
- 申告の流れは、決算を固める → 課税所得を計算 → 税額を計算 → 申告・納付。期限は決算日の翌日から2か月以内。
全体像が掴めたところで、次回(第2回)からは、いよいよ中身に入っていきます。次回は、申告のスタート地点となる「決算書」に注目し、決算と申告がどうつながっているのかを、詳しく見ていきます。決算書のどこを見れば、法人税の計算を始められるのか。一緒に確認していきましょう。
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※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものです。税率や制度は改正されることがあり、個別の取り扱いは状況により異なります。最新かつ正確な情報は国税庁のサイト等でご確認いただくか、専門家へご相談ください。