前回(第5回)は、減価償却を学びました。会計の費用が、税法の限度を超えると損金にならない――という「損金不算入」の一例でしたね。
第6回の今回は、損金不算入の中でも、中小企業で特に問題になりやすい2つ、「役員給与」と「交際費」を取り上げます。どちらも、ふつうの経費とは違う、特別なルールがあります。扱いを間違えると損金にならず、思わぬ税負担につながるので、しっかり押さえておきましょう。
1. なぜ、役員給与と交際費にルールがあるのか
そもそも、なぜこの2つだけ、特別なルールがあるのでしょうか。理由を先に知っておくと、ルールが頭に入りやすくなります。
- 役員給与:役員は、自分の給与を自分で決められる立場にあります。もし自由に金額を変えられると、「もうかった年は給与を増やして、利益(=税金)を減らす」といった操作ができてしまいます。これを防ぐため、役員給与には厳しいルールがあります。
- 交際費:接待や贈答は、事業に必要な面もありますが、私的な飲み食いとの線引きが難しいものです。際限なく経費にできると、課税の公平が崩れます。そこで、損金にできる金額に制限が設けられています。
どちらも、根っこにあるのは「公平な課税」という考え方です。第4回で学んだ「別段の定め」の、代表的な例といえます。
2. 役員給与 ― 損金にできるのは「3つの形」だけ
まず役員給与です。法人税では、役員に支払う給与のうち、損金にできるのは、次の3つのいずれかに当てはまるものだけと決められています。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与(主に上場企業向け。中小企業ではあまり使いません)
中小企業で実際に使うのは、ほぼ最初の2つです。一つずつ見ていきます。
① 定期同額給与 ― 毎月、同じ額
これが、役員給与の基本です。「毎月、同じ金額を支払う給与」のことで、これなら損金になります。
ポイントは「毎月同額」であること。たとえば、社長の役員報酬を月50万円と決めたら、その事業年度は、毎月きっちり50万円を払い続けます。途中で「今月は調子がいいから70万円」などと変えると、その上乗せ分は損金になりません。
では、金額は一切変えられないのでしょうか。変えること自体はできますが、タイミングにルールがあります。原則として、事業年度が始まってから3か月以内(多くは決算後の定時株主総会のとき)に改定する必要があります。この時期に決めた新しい金額を、その後1年間、毎月同額で払い続ける、という流れです。
逆に、期の途中で勝手に増額すると、増やした分が損金にならない、という失敗が起きます。役員報酬の金額は、期の初めにしっかり決めておくことが大切です。
② 事前確定届出給与 ― ボーナスを出すなら、事前に届け出る
役員にボーナス(賞与)を出したい場合は、どうすればよいでしょうか。実は、役員へのボーナスは、何もしなければ損金になりません。
そこで使うのが「事前確定届出給与」です。これは、「いつ・いくら払うか」を事前に税務署へ届け出ておくことで、役員へのボーナスも損金にできる、という仕組みです。
ただし、届け出た内容と、実際の支払いが、一円でも違うと、原則として損金になりません。「やっぱり業績が悪いから減らそう」「良かったから増やそう」が効かない、厳格な制度です。使う場合は、計画的に行う必要があります。
役員給与のまとめ
役員給与で損金不算入を避けるコツは、シンプルです。「毎月同額で払う(定期同額給与)。金額を決めるのは期の初め(3か月以内)。ボーナスを出すなら事前に届け出る(事前確定届出給与)」。この基本を守れば、役員給与の多くは損金にできます。
知っておきたい補足 ― 「役員」の範囲と「高すぎる」給与
2つ、補足しておきます。
一つめは、「役員」の範囲です。ここでいう役員は、登記された取締役だけではありません。たとえば、社長の家族で、役員として登記されていなくても、経営に強く関わり、実質的に役員と同じ立場にある人は、「みなし役員」として、役員給与のルールが適用されることがあります。「登記していないから大丈夫」とは限らない、という点に注意が必要です。
二つめは、「不相当に高額」な部分です。たとえ定期同額給与の形を整えていても、その金額が、仕事の内容に比べて明らかに高すぎる場合は、その高すぎる部分が損金にならないことがあります。「形さえ整えれば、いくらでも損金にできる」わけではない、ということです。常識的な範囲で金額を決めることが大切です。
ちなみに、役員が退職するときに支払う「役員退職金」は、毎月の給与とは別の扱いで、原則として損金にできます。ただし、こちらも金額が不相当に高額だと、その部分は損金になりません。退職金の金額は、在任年数や功績などをもとに、合理的に決めることが求められます。
業績が悪化したときは、減額できる
「毎月同額」が原則ですが、例外もあります。経営が著しく悪化したような場合(業績悪化改定事由)には、期の途中でも役員給与を減額でき、それが認められることがあります。苦しいときに役員報酬を下げるのは自然なことなので、一定の場合には認められている、というわけです。ただし、判断には注意が必要なので、実際に減額する際は専門家に相談するのが安全です。
3. 交際費 ― 中小企業には、うれしい特例がある
次に交際費です。交際費とは、取引先などへの接待・供応・贈答などにかかる費用のこと。これも、損金にできる金額に制限があります。
ただし、中小企業(資本金1億円以下)には、有利な特例が用意されています。中小企業は、次の2つのうち、有利なほうを選べます。
- ① 年800万円までの定額控除:年間の交際費のうち、800万円までを損金にできる。
- ② 接待飲食費の50%:社外の人との飲食費(接待飲食費)の、50%を損金にできる。
多くの中小企業では、交際費が年800万円を超えることは多くありません。そのため、①の「800万円まで全額損金」を選ぶケースがほとんどです。年間の交際費が800万円以内なら、その全額を損金にできる、という心強い特例です。
ちなみに、②の「接待飲食費の50%」が有利になるのは、接待飲食費がかなり多い会社に限られます。具体的には、接待飲食費の50%が800万円を超える、つまり年間の接待飲食費が1,600万円を超えるような場合です。これは一般的な中小企業ではまれなので、ほとんどの会社は①を選んでおけば問題ありません。「うちは①でいい」と割り切れるのも、中小企業の特例のありがたいところです。
※この中小企業向けの特例(800万円の定額控除)は、現時点で令和9年(2027年)3月末までに開始する事業年度まで延長されています。期限のある制度なので、最新の情報は国税庁のサイトでご確認ください。
「1人1万円以下」の飲食費は、交際費から外せる
もう一つ、知っておくと便利なルールがあります。社外の人との飲食で、1人あたり1万円以下のものは、そもそも交際費に含めなくてよい(会議費などとして全額損金にできる)、という扱いです。
つまり、少額の飲食は交際費の枠を使わずに済むので、800万円の枠を温存できます。ただし、これには「参加者の氏名や人数などを記録しておく」といった条件があるので、領収書にメモを残す習慣をつけておくとよいでしょう。
なお、この金額基準は改正されることがあるため、最新の基準は国税庁の情報で確認してください。
何が「交際費」になるのか ― 似た費用との区別
実務でよく迷うのが、「これは交際費なのか、別の費用なのか」という区別です。整理しておきましょう。
- 交際費になるもの:取引先の接待、お中元・お歳暮などの贈答、取引先との飲食、ゴルフ接待など。
- 交際費にならないもの:従業員全員の慰安のための社内行事(福利厚生費)、会議のための弁当やお茶(会議費)、不特定多数への宣伝(広告宣伝費)など。
たとえば、社員旅行や忘年会など、従業員みんなのための支出は、交際費ではなく福利厚生費になります。打ち合わせのときのお茶代やランチ代は、会議費です。同じ「飲食」でも、相手や目的によって、交際費になったり、ならなかったりします。この区別ができると、交際費の枠(800万円)を有効に使えます。領収書には「誰と・何の目的で」をメモしておくと、後で区別がしやすくなります。
4. 申告での扱い ― 別表四・別表十五
これらの損金不算入額は、申告書でどう扱うのでしょうか。
- 役員給与:損金にならない部分があれば、その金額を、別表四で加算します(社外流出)。
- 交際費:交際費の損金不算入額は、専用の「別表十五」で計算し、その結果を別表四に加算します(社外流出)。
どちらも、第3回で学んだ「加算(損金不算入)」であり、かつ「社外流出」(永久に解消しないズレ)にあたります。会社の外に出ていったお金で、二度と損金として戻ってこない、という性質です。第3回・第4回で学んだ分類が、ここで具体的に使われているわけです。
5. ケーススタディ:サンプル株式会社の役員給与・交際費
サンプル株式会社で考えてみましょう。
サンプル株式会社(おさらい) – Web制作業/資本金300万円(中小企業)/3月決算
役員給与のケース
社長の役員報酬を、期の初め(4月の改定)に月50万円と決め、毎月同額で支払いました。これは定期同額給与に当てはまるので、年間600万円は全額が損金になります。問題ありません。
もし、期の途中(たとえば10月)に「業績が良いから」と月70万円に増額していたら、上乗せの20万円×6か月分=120万円が損金不算入(加算)になっていたでしょう。期の初めに決めておくことの大切さが分かります。
交際費のケース
この会社は、今期、取引先との接待などで、交際費を150万円使いました。中小企業なので、800万円の定額控除の範囲内です。したがって、150万円は全額が損金になり、加算は発生しません。
もし交際費が年900万円だったとしたら、800万円を超える100万円が損金不算入(加算)になります。中小企業にとって、800万円の枠がいかに大きいかが分かります。
このように、サンプル株式会社は、ルールを守っているので、役員給与も交際費も損金にできています。「ルールを知って、正しく処理する」ことが、無駄な税負担を避けるカギなのです。
ここで、第3回で計算したサンプル株式会社の課税所得(585万円)を思い出してください。あのとき、加算項目は「法人税・住民税」と「減価償却の超過額」でした。もしこの会社が、役員給与のルールを破って期中に増額していたり、交際費が800万円を超えていたりすれば、そこにさらに加算項目が増え、課税所得も税額も上がっていたはずです。逆に言えば、ルールを守れば、それだけ余計な税金を払わずに済む、ということです。役員給与と交際費は、「知っているかどうか」で結果が大きく変わる、中小企業にとって実利の大きい論点なのです。
まとめ:第6回のポイント
- 役員給与・交際費にルールがあるのは、「公平な課税」のため(役員は給与を自分で決められる/交際費は私的支出との線引きが難しい)。
- 役員給与で損金になるのは、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3つだけ。中小企業は前2つ。
- 定期同額給与は「毎月同額」。改定は期の初め(3か月以内)。期中の勝手な増額は損金不算入。
- 役員ボーナスは、事前に届け出れば損金にできる(事前確定届出給与)。届出どおりに支払うこと。
- 交際費は、中小企業なら年800万円まで損金(または接待飲食費の50%を選択)。1人1万円以下の飲食は交際費から外せる。
- 損金不算入額は、別表四で加算(社外流出)。交際費は別表十五で計算。
役員給与と交際費は、中小企業の申告で必ず意識すべき論点です。ルールを知っていれば、防げる損金不算入がほとんどです。次回(第7回)からは、いよいよ申告書の中心、「別表四」の書き方に入ります。これまで学んだ申告調整が、実際の書類のどこに、どう書かれるのか。一気に実務に近づきます。
- 前回:【法人税の基礎講座⑤】減価償却とは?法人税での扱いをわかりやすく解説
- 次回:【法人税の基礎講座⑦】別表四とは?利益から所得を計算する仕組み
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- 【法人税の理論講座②】役員給与はなぜ損金にならない?定期同額給与とは
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※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものです。税制は改正されることがあり、個別の取り扱いは状況により異なります。最新かつ正確な情報は国税庁のサイト等でご確認いただくか、専門家へご相談ください。