「クラウド会計のfreeeに変えたい。でも、移行が難しそうで、なかなか始められない」。
そのように感じている方は多くいます。実際、freeeへの移行には、いくつか専門的な言葉や作業が出てきます。しかし、一つひとつの意味と手順がわかれば、決して怖いものではありません。
この記事では、freeeへの移行を、最初から順番に解説します。難しそうな言葉も、そのつど一言で補足しながら進めます。
まず、移行の全体像を押さえる
細かい話に入る前に、まず「全体でどんな流れになるのか」を、地図のように眺めておきましょう。ゴールが見えていると、途中で迷いにくくなります。
freeeへの移行は、大きく5つのステップで進みます。
- 今の経理の状態を整理する
- freeeの初期設定をする(会計期間・勘定科目・消費税)
- 銀行口座やカードを「口座」として登録・連携する
- 開始残高を登録し、過去のデータを移す(ここが山場)
- 日々の運用に慣れる
この中で、特に丁寧にやりたいのが、ステップ2の「初期設定」と、ステップ4の「開始残高」です。ここさえ落ち着いて進めれば、移行の大部分は乗り越えられます。
それでは、ステップ1から順に見ていきましょう。
ステップ1:今の経理の状態を整理する
freeeをいきなり触り始める前に、「今、自分がどうやってお金の記録をしているか」を整理します。ここを丁寧にやっておくと、後でつまずきません。
何を確認するか
紙に書き出すか、メモアプリにまとめながら、次のことを洗い出してみましょう。
① お金の出入りが、どこにあるか
事業のお金が動く場所を、すべてリストアップします。たとえば、
- 現金(手元の事業用のお金)
- 銀行口座(事業用。複数あるなら、すべて)
- クレジットカード(事業用)
- 電子マネーやQR決済(PayPayなど、事業で使っているもの)
- ネット決済サービス(Stripe、Square など、売上を受け取っているもの)
ここで漏れがあると、後で「あの口座を登録し忘れた」となります。普段あまり意識しない口座やカードも、思い出して書き出しておきましょう。
② 今、どうやって記録しているか
紙の帳簿なのか、Excelなのか、別の会計ソフト(弥生会計など)なのか。これによって、後のデータの移し方が変わってきます。
③ どこまで記録できているか
直近の取引は、どこまで入力・整理できているでしょうか。未処理の領収書が溜まっていないかも確認します。移行のタイミングで、いったんここまでを整理しておくと、整った状態で新しいスタートが切れます。
④ 「まだ終わっていないお金」があるか
見落としがちですが、ここが意外と大事です。
- 売掛金:提供済みで、まだ入金されていない売上(例:「先月納品、入金は今月末」)
- 買掛金:使ったが、まだ払っていない仕入や経費
これらは後の「開始残高」で必要になります。取引先ごとに、いくら残っているかを確認しておくと、後がスムーズです。
ここまでできたら、事前の整理は完了です。次はいよいよfreeeを設定していきます。
ステップ2:freeeの初期設定をする(土台づくり)
アカウントを作ったら、まず初期設定をします。ここで設定するのは、会計期間・勘定科目・消費税の3つ。家を建てる前の「土台づくり」にあたる、いちばん大事な部分です。
焦って取引の入力に進みたくなりますが、ここを飛ばすと、後で全部やり直しになりかねません。落ち着いて、一つずつ進めましょう。
① 会計期間を設定する
「会計期間」は、決算をする1年間の区切りのこと。いちばん基本となる、土台の設定です。
- 法人(会社)の方:会社を作るときに決めた事業年度に合わせます(例:4月1日〜翌3月31日)。
- 個人事業主の方:会計期間は「1月1日〜12月31日」と法律で決まっています。これは変更できません。
freeeでは、画面の右上に「今、どの年度で作業しているか」が表示されます。ここが古い年度のままだと、入力した取引が、全部違う年に入ってしまいます。これは初心者がいちばん最初にやりがちな失敗なので、作業を始める前に、必ず右上の年度を確認する習慣をつけましょう。
② 勘定科目を整える
「勘定科目」は、お金の使い道につける”ラベル”のようなものです。家賃なら「地代家賃」、文房具なら「消耗品費」といった具合に、何に使ったお金かを分類していきます。
freeeには、よく使う勘定科目が最初から用意されているので、ゼロから作る必要はありません。ただ、ひと手間かけると、後の入力が格段に楽になります。
- よく使う経費には、専用の勘定科目を用意する(例:毎月の家賃、広告費など)
- 使わない勘定科目は、表示されないように隠す(選ぶときに迷わなくなり、間違いが減る)
ポイントは、「毎日の入力画面で、迷わず選べる状態にしておく」こと。ここを整えずに使い始めると、似たような勘定科目を取引ごとにばらばらに選んでしまい、後で集計が合わなくなります。
③ 消費税の設定をする(消費税を納める方は要注意)
消費税を納める必要がある事業者(課税事業者)の方は、ここで消費税の設定をします。ここは少し専門的なので、慎重に。
決めることは、主に次の3つです。
- 計算方法:「本則課税」か「簡易課税」か
- インボイス制度への対応(適格請求書を発行する事業者かどうか)
- 税込で記録するか、税抜で記録するか
この設定を間違えると、納める税金の金額が変わってしまうことがあります。たとえば「簡易課税を選べたのに、気づかず本則課税のままだった」というだけで、損をすることもあります。
なお、簡易課税は、freeeの設定を切り替えるだけでは選べません。原則として、使いたい年度が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に出している必要があり、いちど選ぶと2年間は続けます(対象は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者です)。freeeの消費税の設定は、この届出の内容に合わせます。
また、免税事業者がインボイス登録をして課税事業者になった場合に使える「2割特例」は、令和8年(2026年)9月30日を含む課税期間までの措置です。法人では、それ以後の課税期間は本則か簡易かで計算することになります(個人事業者には別の措置があります。2026年10月時点)。
少しでも不安があれば、この設定をする前に、専門家に確認するのがいちばん安全です。ここは、自己判断で進めず、立ち止まってよい場所です。
会計期間・勘定科目・消費税。この3つを設定できたら、土台は完成です。
ステップ3:銀行口座やカードを「口座」として登録・連携する
ここからは、freeeの便利さを実感できるステップです。
freeeの最大の魅力が、銀行口座やクレジットカードと「自動でつながる」ことです。一度つなげておけば、入金・出金の記録が毎日自動で取り込まれ、手入力の手間を減らせます。
やることは3つ
① freeeに「口座」を登録する
freeeでは、現金・銀行口座・クレジットカード・電子マネーなどを、すべて「口座」という単位で管理します。ステップ1で洗い出した口座やカードを、freeeに登録していきます。
② ネットバンキング・カードと連携する
登録した口座を、ネットバンキングやカード会社のサイトとつなげます。連携の設定をすると、過去数か月分の明細も、さかのぼって自動で取り込めることが多いです。
③ レシートはスマホで撮影
経費のレシートは、スマートフォンのfreeeアプリで撮影するだけ。写真から文字を読み取って、自動でデータにしてくれます。
なお、メールやWebサイトで受け取った請求書・領収書(電子取引のデータ)は、2024年(令和6年)1月から、紙に印刷して保存するのではなく、データのまま保存することになっています。保存には一定の要件があります(電子帳簿保存法)。クラウド会計に移すときに、こうしたデータをどこに・どう保存するかも決めておきます。
この「情報が自動で集まってくる」仕組みが、クラウド会計が経理を楽にする理由です。今まで手で入力していた時間を、減らしていけます。
大事な順番:この口座の登録は、次のステップ4「開始残高」よりも先に済ませておきましょう。後の作業がスムーズになります。
ステップ4:開始残高を登録し、過去のデータを移す(ここが山場)
ここがfreee移行の心臓部であり、いちばん丁寧にやりたいところです。少し専門的ですが、一つずつ説明します。
「開始残高」とは何か
「開始残高」とは、freeeを使い始める時点で、事業が持っているお金・財産・借金などの残高のこと。ひとことで言えば、これまでの帳簿の「続き」からfreeeを始めるための、スタート地点の登録です。前の帳簿の期末の残高を、そのまま新しい帳簿の期首の残高にする、ということです。
具体的には、次のものを入力します。
- 現金や預金の残高
- 売掛金(まだ入金されていない売上)
- 買掛金(まだ払っていない仕入・経費)
- 借入金(銀行などからの借金)
- 未払金(カードの未払いなど)・預り金(源泉所得税や社会保険料の預かり分)・前受金
- 固定資産(車や機械など、高価で長く使うもの)
固定資産は、残高の金額だけでなく、取得した日・取得価額・償却方法・期首の帳簿価額も要ります(固定資産台帳)。前のソフトか、決算を頼んでいる税理士から受け取ります。
どこから入力するか
freeeの [その他設定]メニュー → [開始残高] から登録します。
この画面は、freeeを使い始める最初の年だけ開くことができます。
何を見ながら入力するか
前の年の「決算書」の中にある、「貸借対照表」を手元に用意しましょう。これは、事業の財産と借金の一覧表です。ここに書かれている数字を、freeeの開始残高に転記していきます。法人で税理士に決算を頼んでいる場合は、決算書・勘定科目内訳明細書・固定資産台帳をまとめて受け取ります。移行の時期も先に相談しておくと、年度の切れ目をそろえられます。
もし決算書が手元にない場合は、まず「持っているお金・財産(資産)」から入力し、次に「借金など(負債)」、最後に「元手(純資産)」の順で埋めていくと、スムーズです。
いちばん大事な注意
開始残高を入力すると、左右(借方・貸方といいます)のバランスが取れているかが表示されます。ここがズレていると、その後のすべての数字が合わなくなります。移行作業の中で、最も慎重になってよい場所です。あわてず、決算書と一つずつ照らし合わせましょう。
売掛金・買掛金は「取引先ごと」に入れる
売掛金や買掛金を入力するときは、合計額だけでなく、「どの取引先の分が、いくら」まで分けて登録しておくのがおすすめです。
こうしておくと、後で入金や支払いがあったときに、「A社からの入金で、先月の売掛金が消えた」と一つずつ消し込めて、管理が楽になります。合計額だけで済ませると、後から「これは誰の分か」とわからなくなりがちです。
「いつ乗り換えるか」で、手間が変わる
実は、freeeへの乗り換えは、「いつ切り替えるか」で手間が大きく変わります。
- 年度の初めから切り替える(おすすめ):個人なら1月1日から、法人なら事業年度の初日から始める方法。過去の取引を細かく移す必要がなく、いちばん手間が少なく、間違いも起きにくいです。
- 年度の途中から切り替える:今すぐ始めたい場合の方法。ただし、その年の初めから今日までの取引を、別途freeeに取り込む必要があり、手間が増えます。
もし急いでいないなら、「次の年度の初め」を待って切り替えるのがおすすめです。年度の途中までの取引を取り込む作業が要らなくなるためです。
前のソフトのデータを移す(弥生会計など)
弥生会計などの会計ソフトを使っていた場合は、勘定科目や過去の取引データを、CSVファイル(表計算の形式)でまとめてfreeeに取り込めます。
ただし、ソフトによってデータの形が違うため、freeeの形式に合わせる加工が必要になることがほとんどです。「どの列が勘定科目で、どの列が金額か」を一つずつ指定する作業があり、ここで手が止まる方も多いです。難しいと感じたら、無理をせず、専門家のサポートを受けるのも一つの方法です。
開始残高が入って、左右のバランスが合ったら、いちばんの山場は越えました。
ステップ5:日々の運用に慣れる(ここからが本番)
移行が終わったら、いよいよ毎日の運用です。最初の1〜2か月は、操作に戸惑う場面もあるかもしれませんが、慣れてくれば、経理にかかる時間は減らしていけます。
日々やることは、主にこの3つです。
- 自動で取り込まれた明細を、正しい勘定科目に振り分ける:freeeが「これは消耗品費では?」と提案してくれるので、確認して登録します。
- レシートを撮影して登録する:使ったその日に撮る習慣をつけると、溜まりません。
- 月末に、数字が合っているかを確認する:通帳の残高とfreeeの残高が一致しているか、月に一度チェックします。
大事な習慣:「ためずに、こまめに」
クラウド会計を楽に続けるいちばんの要点は、「ためずに、こまめに」です。数か月分を一気に処理しようとすると、それだけで大変な作業になり、続かなくなります。週に一度、少しずつ触るだけで、ずっと楽になります。
freeeは「使うほど賢くなる」
freeeは、過去の入力を学習して、仕訳の提案の精度が上がっていきます。最初のうちは提案が間違うこともありますが、使い込むほど、自動化の精度が上がっていきます。最初の手間は、その後の自動化のための投資です。
つまずきやすいポイントのおさらい
最後に、特につまずきやすい3つのポイントを、もう一度まとめておきます。
- 会計期間の確認:画面右上の年度が正しいか。古いままだと取引が違う年に入る。
- 消費税の設定:本則か簡易か、インボイス対応。間違えると納税額が変わる。不安なら専門家に確認。
- 開始残高のバランス:決算書を見ながら、左右がきちんと合うように。ここがズレると後がすべて狂う。
移行前チェックリスト(保存版)
着手する前に、これだけ用意・確認しておくと安心です。
- ☐ 前の年の決算書(貸借対照表)— 開始残高の入力に使う
- ☐ 事業で使う銀行口座・クレジットカードの一覧と、ログイン情報
- ☐ 売掛金・買掛金の、取引先ごとの残高
- ☐ 固定資産台帳(取得日・取得価額・償却方法・期首の帳簿価額)
- ☐ 預り金(源泉所得税・社会保険料)・未払金の残高
- ☐ 消費税の計算方法(本則/簡易。簡易課税は届出書の控えで確認)と、インボイス登録の有無
- ☐ 乗り換えのタイミング(できれば年度初め)
「やり方を知る」ことと「自分でやり切る」ことは別
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。「思っていたより、決めることや作業が多い」と感じた方もいるかもしれません。
freeeへの移行は、仕組みがわかれば、ご自身でも進められます。一方で、消費税の設定や、開始残高の登録、前のソフトからのデータ移行は、間違えると後の修正に大きな時間がかかる、専門的な工程でもあります。特に消費税の判断は、納税額に直接かかわります。
「本業が忙しくて、移行に時間を割けない」「最初の設定だけは、プロに見てもらいたい」という場合は、移行作業を専門家にサポートしてもらうのも、合理的な選択です。つまずきやすい部分を最初から正しく組み立てておけば、移行したあとの修正の手間を抑えられます。
まとめ
freeeへの移行は、次の5つのステップで進みます。
- 今の経理の状態を整理する
- 初期設定(会計期間・勘定科目・消費税)をする
- 口座を登録・連携する
- 開始残高を登録し、データを移す
- 日々の運用に慣れる
つまずきやすいのは「初期設定」と「開始残高」ですが、一つずつ落ち着いて進めれば、乗り越えられます。
クラウド会計に移ると、口座やカードの取引を自動で取り込めるようになり、会社の数字を、いつでも・どこからでも確認できるようになります。経理にかけていた時間を、少しずつ本業に回していけます。その第一歩を、この記事が後押しできれば幸いです。
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※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものであり、個別の税務相談に応じるものではありません。会計・税務の具体的な取り扱いは状況により異なります。正確な情報は国税庁のサイト等でご確認いただくか、専門家へご相談ください。