会社が赤字になった年は、法人税がかかりません。では、その赤字はそれで終わりでしょうか。
終わりではありません。青色申告をしていれば、その赤字を10年間繰り越して、将来の黒字と相殺できます。 これが繰越欠損金です。
実務講座⑥では、別表七(一)にどう書くかを見ました。今回は、なぜこんな制度があるのか、そしてなぜ青色申告が条件なのかを考えます。理論講座の最終回として、赤字の年ほど申告が大切だという話につながります。
1. なぜ赤字を繰り越せるのか
事業年度で区切ると、同じ利益でも税負担が変わってしまう。1年目500万円の赤字・2年目500万円の黒字なら通算ゼロなのに、繰越がないと2年目に課税されてしまう。

▲ 繰越欠損金が認められる理由を示した図。1年目に500万円の赤字、2年目に500万円の黒字という会社の場合、2年を通算すれば利益はゼロであるにもかかわらず、赤字を繰り越せなければ2年目の黒字だけに課税されてしまうこと、事業年度で区切ることによって生じるこうした不均衡を調整するために繰越控除が認められていることを表す。
そもそも、法人税はなぜ1年ごとに計算するのでしょうか。
会社の事業は、本来ずっと続いていくものです。それを1年で区切っているのは、税金を毎年集める必要があるという、いわば人為的な都合によります。会社の一生が終わってから精算する、というわけにはいかないからです。
ところが、この区切りが問題を生みます。たとえば、1年目に500万円の赤字、2年目に500万円の黒字という会社を考えてみましょう。2年を通算すれば、儲けはゼロです。それなのに、赤字を繰り越せないとしたら、2年目の500万円だけに課税されてしまいます。
一方、毎年250万円ずつ安定して稼いだ会社は、同じ2年で500万円の利益。こちらも当然課税されますが、両者の税負担が同じでは不公平です。業績の波が大きい会社ほど、税負担が重くなってしまう。
そこで、赤字を将来に繰り越して黒字と相殺できるようにしました。事業年度で区切ることの人為性を、あとから調整する制度――これが繰越欠損金の本質です。だから、これは特別な優遇ではなく、課税の公平を保つための当然の仕組みだといえます。
2. 10年と100%という条件
繰越欠損金の主なルールを確認しておきましょう。
繰越欠損金のルール:繰越期間は10年、中小法人は所得の100%まで控除可能(大法人は50%)、古い欠損金から順に使う。

▲ 繰越欠損金の主なルールを示した図。欠損金を繰り越せる期間は10年であること、控除できる限度額は資本金1億円以下の中小法人であれば所得の100%まで、資本金1億円超の大法人は所得の50%までであること、複数年分の欠損金があるときは古いものから順に控除していくことを表す。
繰越期間は10年です。かつては9年でしたが、平成30年4月1日以後に開始する事業年度で生じた欠損金から10年に延長されました。10年あれば、多くの会社は業績を立て直せるだろう――繰越期間の長さは、そうした考え方に基づいて設定されています。
控除限度額は、中小法人なら所得の100%です。つまり、繰越欠損金が十分に残っていれば、黒字の年の所得をゼロまで圧縮できます。一方、資本金1億円超の大法人は所得の50%までしか控除できません。黒字化しても所得の半分には課税されるので、欠損金を消化するのに時間がかかります。
なぜ中小企業だけ100%なのでしょうか。大法人に制限が設けられたのは、財政上の理由から、赤字を抱えた大企業でも一定の税負担を求めるという政策判断によります。この割合は段階的に引き下げられてきました(80%→65%→60%→55%→50%)。中小企業には、資金力の乏しさへの配慮から、この制限が及んでいません。理論講座⑦で見た軽減税率と同じで、中小企業への配慮がここにも表れているわけです。
なお、複数年分の欠損金があるときは、古いものから順に使います。期限切れで消えてしまうのを防ぐためです。
数字で確認してみましょう。1年目に800万円の赤字、2年目に300万円の赤字が出た会社が、3年目に700万円の黒字になったとします。中小法人なら所得の100%まで控除できるので、3年目の所得700万円はすべて相殺され、法人税はゼロです。使ったのは古いほうの800万円のうち700万円で、残る100万円と、2年目の300万円は、翌期以降に繰り越されます。合計400万円の欠損金が、まだ手元に残っているという状態です。
これが大法人なら、控除できるのは所得の50%=350万円まで。残りの350万円には課税されます。同じ状況でも、中小法人のほうが立て直しが速いわけです。
3. なぜ青色申告が条件なのか
ここが今回の中心です。繰越欠損金は、青色申告をしていなければ使えません。なぜでしょうか。
青色申告が条件である理由:赤字の金額を将来にわたって信用するには、きちんとした記帳が前提になる。青色申告は「帳簿を正しくつける」ことと引き換えに特典を与える制度。

▲ 繰越欠損金に青色申告が条件とされる理由を示した図。赤字の金額を10年先まで信用して控除を認めるには、その金額が正しいという裏づけが必要であること、青色申告は複式簿記による記帳と帳簿書類の保存を行うことと引き換えに税務上の特典を与える制度であり、記帳への信頼が特典の前提になっていることを表す。
考えてみてください。「10年前に500万円の赤字が出ました」と主張して、将来の黒字から差し引く。その500万円が正しいという保証は、どこにあるのでしょうか。
答えは、帳簿です。日々の取引をきちんと記録し、その帳簿を保存しているからこそ、10年前の数字を信用できる。青色申告とは、「帳簿を正しくつけて保存する」ことと引き換えに、税務上の特典を与える制度なのです。
だから、青色申告の特典は、繰越欠損金だけではありません。理論講座⑩で見た各種の税額控除も、少額減価償却資産の特例も、すべて青色申告が前提です。記帳への信頼が、優遇の土台になっているというのが、この制度の考え方です。
申請の期限にも注意が必要です。青色申告の承認申請は、原則として適用を受けようとする事業年度が始まる日の前日までに出さなければなりません。設立初年度は、設立から3か月を経過した日と、設立第1期の終了日のいずれか早い日の前日までです。決算が終わってから「青色にしたい」と言っても、その年には間に合いません。
もうひとつ、見落としやすい要件があります。繰越欠損金を使うには、欠損が生じた年に青色申告書を提出しているだけでは足りず、その後の各事業年度についても連続して確定申告書を提出している必要があります。途中の年に申告を飛ばしてしまうと、せっかく繰り越してきた欠損金が使えなくなるおそれがあります。「赤字の年だけ気をつければいい」のではなく、黒字の年も含めて申告を切らさないことが条件だと理解しておきましょう。
また、帳簿書類の保存も要件です。10年前の欠損金を使うのであれば、その根拠となる帳簿も残っていなければなりません。保存期間が長いのは、繰越期間が10年であることと対応しています。
4. 青色申告は取り消されることがある
いったん承認を受けても、それで安心ではありません。青色申告の承認は、取り消されることがあります。
取消しの理由として定められているのは、帳簿書類の備付け・記録・保存が法令に従っていない場合、税務署長の指示に従わない場合、隠蔽や仮装があった場合、そして2事業年度連続で期限内に申告書を出さなかった場合などです。
中小企業にとって現実的なリスクは、この最後のものです。2期続けて申告が遅れると、青色申告の承認が取り消されます。 取り消されると、繰越欠損金は使えなくなり、税額控除も特例も一切使えなくなります。しかも、取消しの通知を受けてから1年間は再申請ができません。
ここで、赤字の年こそ申告が大切だという話につながります。赤字なら法人税はゼロなので、「申告しなくてもいいだろう」と考えてしまいがちです。でも、申告をしなければ、その赤字は繰り越せません。しかも、それが2期続けば青色申告そのものを失います。実務講座⑭で見たとおり、赤字でも住民税の均等割はかかるので、申告しないメリットは何ひとつありません。
なお、取消事由に当たる場合でも、やむを得ない特別な事情があり、再発防止の体制が整えられるなど、取り消さないことが相当と認められる場合には、取り消されないこともあります。とはいえ、それを期待するのは危険です。期限内申告を続けることが、いちばん確実な守り方です。
5. 繰戻し還付という選択肢
赤字が出たとき、繰越控除のほかにもう一つの道があります。欠損金の繰戻し還付です。
これは、赤字の年の損失を過去に遡って、前期に納めた法人税の還付を受ける制度です。中小企業者等が使えます。
繰越控除が「将来の黒字と相殺する」制度なのに対し、繰戻し還付は「過去の黒字と相殺して税金を返してもらう」制度。時間の向きがちょうど逆になっている、と考えると分かりやすいと思います。
どちらが有利かは、状況によります。繰戻し還付は、今すぐ現金が戻ってくるのが強みです。資金繰りが苦しい局面では、将来の節税より目の前の現金のほうが価値があります。一方、繰越控除は、将来の黒字がしっかり出る見込みがあるなら、そちらのほうが控除できる金額が大きくなることもあります。
ただし、繰戻し還付を請求すると、その内容を確認するために税務調査が行われることがある点は知っておいてください。手続きとしては当然の流れですが、心構えは必要です。
判断の目安を挙げるなら、こうなります。創業期で、これから黒字が伸びていく見込みがあるなら、繰越控除。将来の税率が高い部分に当てられるので、控除の価値が大きくなります。一方、一時的な要因で赤字になり、前期にはしっかり納税していて、いま資金が必要なら、繰戻し還付。すでに納めた税金が現金で戻ってくるので、資金繰りへの効果は即座に表れます。
なお、繰戻し還付を選ぶと、その欠損金は使い切ったことになり、繰越控除には回せません。両方を同時に使うことはできないので、赤字が出た時点で、どちらが自社にとって価値が大きいかを考えることになります。
赤字が出た年は、この2つを比べて選ぶ。 どちらを選ぶにしても、出発点は「期限内に申告すること」です。
6. まとめ:繰越欠損金と青色申告の要点
- 繰越欠損金は、事業年度で区切ることの人為性を調整する制度。業績の波が大きい会社ほど不利にならないようにするための、課税の公平を保つ仕組み。
- 繰越期間は10年。控除限度額は中小法人なら所得の100%(大法人は50%)。複数年分は古いものから順に使う。
- 青色申告が条件なのは、赤字の金額を将来にわたって信用するには記帳への信頼が前提だから。承認申請は事業年度開始の日の前日まで。欠損が生じた年だけでなく、その後の年も連続して申告していることが要件になる。
- 2期連続で期限後申告になると、青色申告の承認が取り消される。繰越欠損金も税額控除も使えなくなり、1年間は再申請できない。赤字の年こそ、期限内に申告する。
- 赤字の年には繰戻し還付という選択肢もある。今すぐ現金が欲しいなら繰戻し還付、将来の黒字が見込めるなら繰越控除。両方を同時に使うことはできないので、赤字が出た時点で比べて決める。
赤字は、経営者にとって気の重いものです。決算書を見たくない、申告も後回しにしたい――そう感じるのは自然なことだと思います。でも、税法は赤字の年をきちんと申告した会社に、10年という長い救済期間を用意しています。その年の損失を、将来の自分に引き継げる制度です。だからこそ、苦しい年ほど、期限内に申告してください。それが、立て直したときにいちばん効いてきます。
理論講座は、これで全12回が完結です。法人税・所得税・消費税の違いから始まり、役員給与や交際費がなぜ制限されるのか、留保と社外流出は何が違うのか、決算書はどう読むのか――「なぜそうなっているのか」を一つずつ見てきました。個別のルールは改正で変わりますが、その根っこにある考え方は、そう簡単には変わりません。この12回で得た視点が、これから新しい制度に出会ったときの手がかりになれば幸いです。
- 前回:【法人税の理論講座⑪】同族会社とは?なぜ特別な規制があるのかをわかりやすく解説
- シリーズの最初から読む:【法人税の理論講座①】法人税・所得税・消費税の違いをわかりやすく解説
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。記載の期間・割合・要件は一般的な場合を想定した説明であり、実際の取扱いは法人の状況により異なります。取扱いは改正されることがあります。実際の判断にあたっては、最新の情報を国税庁等で確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。