【法人税の基礎講座⑫】繰越欠損金とは?赤字の繰り越しをわかりやすく

これまでの回では、会社が黒字であることを前提に、税金の計算を見てきました。でも、会社の業績は、毎年黒字とは限りません。とくに創業まもない時期や、景気が厳しい年には、赤字になることもあります。

では、赤字の年は、税金の世界でどう扱われるのでしょうか。実は、赤字をただの「損」で終わらせず、将来の黒字と相殺して、税金を軽くできる仕組みがあります。それが、第12回の今回のテーマ「繰越欠損金」です。青色申告の、大きなメリットの一つでもあります。

目次

1. 繰越欠損金とは ― 赤字を未来の黒字と相殺できる

欠損金」とは、ざっくり言えば、税務上の赤字のことです。第3回から学んだ課税所得が、マイナスになった状態を指します。

ここでいう赤字は、正確には「税務上の赤字」、つまり別表四で計算した課税所得がマイナスになった状態を指します。会計上の赤字(損益計算書の当期純損失)と必ずしも一致しないのは、これまで学んだ加算・減算の調整が入るからです。会計では赤字でも、申告調整の結果、税務上は黒字(所得がプラス)になることもありますし、その逆もあります。繰越欠損金の対象になるのは、あくまで申告調整まで終えたあとの、税務上の欠損金です。

青色申告をしている会社は、この欠損金(赤字)を、その年で終わらせず、翌期以降に繰り越して、将来の黒字(所得)と相殺できます。これが「繰越欠損金」、正式には「欠損金の繰越控除」という制度です。将来、黒字になった年に、過去の赤字を差し引けるので、その分だけ課税所得が減り、法人税などが軽くなります。

なぜ、こんな制度があるのでしょうか。それは、単年度で区切って課税すると、不公平になるからです。たとえば、1年目に300万円の赤字、2年目に300万円の黒字だった会社を考えてみましょう。2年を通せば、もうけはプラスマイナスゼロです。それなのに、2年目の黒字300万円にまるまる課税されてしまうと、トータルでは損をしていない会社が、税金だけ取られることになります。これはおかしい。そこで、赤字を将来へ繰り越して黒字と相殺し、複数年を通じて見れば公平になるよう、税負担をならす――これが繰越欠損金の趣旨です。とくに、先行投資で赤字になりやすい創業期の会社にとって、とても心強い制度です。

たとえば、開業の年に設備や広告へ大きく投資して赤字になっても、その赤字を、軌道に乗ったあとの黒字と相殺できます。最初の苦しい時期の損失を、成功したあとの税金で取り返せる――この「時間をまたいだ通算」ができることこそ、繰越欠損金のいちばんの値打ちです。単年度では損にしかならない赤字が、未来へつなぐことで意味を持つ、というわけです。

2. ポイント1:繰越期間は最長10年

繰り越せる期間には、限りがあります。現在のルールでは、平成30年(2018年)4月1日以後に始まった事業年度に生じた欠損金は、最長10年繰り越せます(それより前に生じたものは9年です)。

つまり、ある年の赤字は、その後10年以内の黒字となら、相殺できるわけです。10年というのはかなり長く、創業期に大きな赤字が出ても、その後じっくり黒字化していけば、使い切れるだけの余裕があります。なお、過去の赤字が何年分かたまっている場合は、いちばん古い赤字から順に使っていきます。古いものほど期限が近いので、先に使うのが理にかなっているわけです。逆に、10年の期限を過ぎてしまった欠損金は、使われないまま消えてしまうので、注意が必要です。

複数の年に赤字が出た会社では、それぞれの赤字に「発生した年」があり、10年の期限も別々に進んでいきます。たとえば、3年前の赤字と昨年の赤字があるなら、まず3年前の赤字(期限が近いほう)から使い、それでも黒字が残れば、さらに昨年の赤字を使う、という順番です。会計ソフトや申告書(別表七(一))が、どの年の赤字がいくら残っているかを自動で管理してくれますが、「古い赤字ほど早く使う」という原則を知っておくと、数字の意味がよく分かります。

3. ポイント2:中小企業は黒字を全額相殺できる

次に、「1年でどれだけ相殺できるか」という限度の話です。ここに、中小企業にとって大きなメリットがあります。

  • 中小法人(資本金1億円以下)… その年の所得の 全額(100%) を相殺できる。
  • 大法人(資本金1億円超)… その年の所得の 50%までしか相殺できない。

たとえば、繰越欠損金が500万円あり、今年の黒字(所得)が400万円だったとします。中小企業なら、400万円の所得を全額相殺できるので、課税所得はゼロになります。一方、大法人だと、所得400万円の50%=200万円までしか相殺できず、残り200万円には課税されてしまいます。中小企業は、黒字を丸ごと相殺して、税金をゼロにできる――これは、繰越欠損金における中小企業の、はっきりした優遇です。

なぜ大法人は半分までなのでしょうか。これは、繰越欠損金を多く抱える大企業が、黒字になっても何年も法人税をほとんど払わない、という状態が続くのを避けるためです。所得の半分は必ず課税することで、最低限の税収を確保しつつ、過去の赤字も一定程度は救う――そのバランスをとった制度設計になっています。中小企業は、財務基盤が弱く、創業期の赤字も大きくなりがちなので、こうした上限を設けず、全額の相殺を認めて手厚く支援している、というわけです。

なお、繰越欠損金で課税所得をゼロにできても、第11回でみた法人住民税の均等割(最低でも年7万円ほど)は、別にかかります。「所得はゼロでも、最低限の地方税はかかる」という点は、あわせて押さえておきましょう。

4. ポイント3:青色申告が条件

繰越欠損金を使うには、条件があります。いちばん大事なのは、青色申告をしていることです。具体的には、次のような点を満たす必要があります。

  • 欠損金が生じた年に、青色申告書で確定申告をしていること。
  • その後も、連続して確定申告書を提出し続けていること。
  • 帳簿書類を保存していること(10年間)。
  • 申告書に「別表七(一)」(欠損金の損金算入等に関する明細書)を添付すること。

とくに気をつけたいのが、「連続して申告を続ける」という点です。たとえ赤字でゼロ申告の年でも、申告書を出し続けないと、繰り越してきた欠損金が使えなくなってしまうことがあります。せっかくの「将来の節税の弾」を失わないためにも、毎年きちんと申告することが大切です。なお、繰越欠損金の残高や、今年いくら使ったか、翌期へいくら繰り越すかは、別表七(一)で年ごとに管理していきます。第10回で触れた別表の一つが、ここで活躍するわけです。第1回でも少し触れましたが、繰越欠損金は、青色申告を選ぶ大きな理由の一つだといえます。

青色申告には、このほかにも、第5回で学んだ少額減価償却資産の特例(30万円未満を一括で損金にできる)や、各種の特別償却・税額控除など、たくさんの優遇があります。帳簿をきちんとつけて青色申告をする手間はありますが、その見返りに受けられる税制上のメリットは大きく、とくに繰越欠損金は、赤字の年があった会社ほど効いてきます。会社を設立したら、まず青色申告の承認申請を出しておくこと――これが、税務の第一歩といえます。

5. ケーススタディ:相殺の流れを追う

具体的な流れを、サンプル株式会社にこんな数年間があったと仮定して、追いかけてみましょう。これまでのサンプル株式会社は黒字の会社でしたが、ここでは説明のため、創業からの数年間に、赤字の年と黒字の年があったケースを想定します。

  • 1期目(赤字): 所得が 300万円。300万円の欠損金が発生し、翌期へ繰り越します。
  • 2期目(黒字200万円): 繰り越してきた欠損金300万円のうち、200万円を相殺。課税所得はゼロになり、法人税はかかりません(均等割など最低限の地方税は別途かかります)。使い残した 100万円 を、さらに翌期へ繰り越します。
  • 3期目(黒字250万円): 残っていた欠損金 100万円を相殺。課税所得は 150万円 となり、この150万円に対して課税されます。

このように、過去の赤字が、将来の黒字を食べていくイメージです。赤字が、ただの損で終わらず、将来の税金を減らす力に変わっていきます。下の図で、この流れを確認してください。

繰越欠損金の相殺の流れ:1期目の赤字300万円が欠損金として繰り越され、2期目の黒字200万円と相殺して課税所得0円・残り100万円を繰越、3期目は残り100万円と相殺して課税所得150万円に課税される。中小企業は黒字を全額相殺できる。

▲ 繰越欠損金の相殺の流れを示した図。1期目の赤字300万円が欠損金として繰り越され、2期目の黒字200万円、3期目の黒字100万円分と順に相殺され、残った所得にだけ課税されることを表す。

創業期に思い切った投資をして赤字になっても、その赤字は無駄にはなりません。黒字化したあとの数年間、税金を抑えてくれる「貯金」のような存在になるのです。これが、繰越欠損金が「最強の節税制度の一つ」と呼ばれるゆえんです。

先ほどの例で考えると、1期目の赤字300万円は、2期目・3期目で合わせて300万円分の黒字を相殺しました。中小企業の実効税率をざっくり3割とすれば、本来その300万円にかかったはずの税金、およそ90万円ほどを抑えられた計算になります。赤字そのものは嬉しいことではありませんが、その損失を将来の税金で取り返せると考えれば、少し前向きに受け止められるかもしれません。

6. もう一つの選択肢「繰戻し還付」と、消費税との違い

赤字が出たときの選択肢は、将来へ繰り越すだけではありません。中小企業には、もう一つ「繰戻し還付」という道があります。

これは、今年の赤字を前の年(前期)に繰り戻し、前期に納めた法人税の一部を返してもらう制度です。繰越控除が「赤字を未来の黒字にぶつける」のに対し、繰戻し還付は「赤字を過去の黒字にぶつけて、払った税金を取り戻す」もの。前期が黒字で税金を納めていて、今すぐ資金がほしい、というときに有効です。逆に、これから黒字が見込めるなら、繰り越して将来に使うほうが得な場合もあります。どちらを選ぶかは、業績の見通しと資金繰りを見ながら判断します。これは中小企業だけに認められた特例です。

たとえば、前期に黒字で50万円の法人税を納めた会社が、今期に赤字になったとします。繰戻し還付を選べば、その50万円の一部が戻ってきて、苦しい時期の資金繰りを助けてくれます。一方、来期から大きく黒字化する見込みなら、今の赤字は繰り越しておき、来期以降の高い税金を抑えるために使う、という判断もあります。なお、繰戻し還付を受けるには、前期も青色申告であることなど、いくつかの条件があります。使えるか、使うべきかは状況によりますので、迷ったら専門家に相談するのがよいでしょう。

最後に、よくある誤解を一つ。繰越欠損金は、あくまで法人税(と法人住民税・事業税)の話です。「消費税」とは別物だ、という点に注意してください。消費税は、会社のもうけ(利益)ではなく、商品やサービスの取引そのものにかかる税金です。そのため、たとえ赤字の年でも、売上があれば消費税の納税が生じることがあります。「赤字だから税金はゼロ」と思い込むと、消費税の納付で資金繰りに困ることがあるので、注意しましょう。第11回でみた法人住民税の均等割も、赤字でもかかる税金の代表でした。「赤字=税金ゼロ」ではなく、利益にかからない税金(消費税・均等割など)は別にある――この感覚を持っておくと、資金繰りで慌てずに済みます。消費税が法人税とどう違うのかは、別の記事(実務講座)でくわしく扱います。

まとめ:第12回のポイント

  • 繰越欠損金は、赤字(欠損金)を翌期以降に繰り越し、将来の黒字と相殺できる制度。複数年で税負担をならし、公平にする趣旨。青色申告の大きなメリット。
  • 繰越期間は最長10年(平成30年4月以後の欠損金)。古い赤字から順に使う。
  • 控除限度は、中小法人は所得の全額(100%)、大法人は50%まで。中小のはっきりした優遇。
  • 条件は青色申告。連続して確定申告書を出し続け、別表七(一)で管理する。
  • 赤字が出たときは、繰戻し還付(前期の税金を取り戻す)という中小の特例もある。
  • 繰越欠損金は法人税の話。消費税は別物で、赤字でもかかることがある。

赤字を未来へつなぐ仕組みまで見てきました。これで、黒字の年も赤字の年も、法人税のしくみがひととおりそろいました。次回(第13回)はいよいよ最終回。これまでの全12回を踏まえ、申告と納付の実務――e-Taxでの電子申告、納付の方法、そして1年間のスケジュール――を総まとめします。サンプル株式会社の申告書が、ついに完成します。

  • 前回:【法人税の基礎講座⑪】法人住民税・事業税とは?地方税の申告をやさしく
  • 次回:【法人税の基礎講座⑬】法人税の申告と納付|e-Taxと年間スケジュール

あわせて読みたい

繰越欠損金や、消費税との違いについて、さらに詳しく知りたい方は、こちらもどうぞ。

  • 【法人税の実務講座⑫】消費税の申告は法人税とどう違う?基本を解説
  • 【法人税の理論講座⑫】繰越欠損金と青色申告の関係をわかりやすく解説

※本記事は、一般的な情報を分かりやすくまとめたものです。会計・税務の具体的な取り扱いは状況により異なります。税制改正により内容が変わる場合もありますので、正確な情報は国税庁のサイト等でご確認いただくか、専門家へご相談ください。

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