【法人税の理論講座⑩】中小企業向けの税額控除をわかりやすく解説

節税というと、「経費を増やす」ことを思い浮かべる方が多いと思います。でも、法人税を減らす方法はもうひとつあります。税額そのものを直接減らす、税額控除です。

この2つは、効果がまったく違います。理論講座⑦で見たとおり、中小企業の実効税率は所得800万円超の部分で約33%。つまり、100万円の経費を増やしても、減る税金は約33万円です。ところが、100万円の税額控除なら、税金が100万円まるごと減ります

今回は、この税額控除の仕組みと、中小企業が実際に使える制度を整理します。ただし、この分野は改正が最も激しい領域でもあります。個別の率を暗記するより、制度の骨格と探し方を押さえておくほうが役に立ちます。

目次

1. 損金算入と税額控除は、効果が違う

損金算入は所得を減らすので実効税率の分だけ税額が減る。税額控除は税額を直接減らすので、控除額がそのまま減税額になる。

▲ 損金算入と税額控除の効果の違いを示した図。損金算入は所得を減らす仕組みなので、100万円を損金にしても実効税率が33%であれば減る税金は約33万円にとどまるのに対し、税額控除は計算された税額から直接差し引く仕組みなので、100万円の税額控除であれば税金が100万円そのまま減ることを表す。

まず、法人税の計算の流れを思い出しましょう(実務講座①②)。

所得を計算し(別表四)、そこに税率を掛けて税額を出し(別表一)、最後に税額控除を差し引く。この順番です。

損金算入は、いちばん上の「所得」を減らします。 所得が減れば税額も減りますが、減る割合は税率の分だけ。実効税率が33%なら、100万円の損金で減る税金は約33万円です。残りの67万円は、実際に支出したまま戻ってきません。

税額控除は、いちばん下の「税額」を直接減らします。 控除額がそのまま減税額になるので、100万円の控除なら100万円の減税です。

だから、同じ100万円なら、税額控除のほうが3倍ほど効果が大きいことになります。理論講座⑨の最後で「節税のために10万円使っても、戻るのは3万円程度」と書きましたが、税額控除は話が別です。使える制度があるなら、必ず検討する価値があります。

2. 中小企業が使える主な制度

中小企業向けの代表的な税額控除は3つ。賃上げ促進税制(給与を増やす)、投資促進税制(設備を買う)、経営強化税制(計画の認定を受けて設備を買う)。

▲ 中小企業が使える主な税額控除の制度を示した図。従業員の給与総額を前年より増やした場合に増加額の一定割合を控除できる賃上げ促進税制、機械装置などの設備を取得した場合に取得価額の一定割合を控除できる中小企業投資促進税制、経営力向上計画の認定を受けて設備を取得した場合に控除できる中小企業経営強化税制の3つが中心であることを表す。

賃上げ促進税制。 従業員の給与総額を前年より増やしたときに、増加額の一定割合を税額控除できる制度です。中小企業向けは、給与総額が前期比1.5%以上増えれば増加額の15%、2.5%以上増えれば30%を控除できます。さらに、くるみん認定(子育てサポート)やえるぼし認定(女性活躍推進)を受けていれば5%の上乗せがあり、最大35%になります。

数字で見てみましょう。前期の給与総額が1,000万円、当期が1,030万円だったとします。増加額は30万円で、増加率は3%。2.5%以上なので控除率は30%です。したがって、30万円×30%=9万円が税額控除になります。ここで注意したいのは、控除の対象は増加額であって給与総額ではないという点です。1,030万円の30%ではありません。賃上げの効果は、思ったより控えめだと感じるかもしれませんが、それでも支払う税金が直接9万円減るのは小さくありません。

中小企業投資促進税制。 機械装置などの設備を取得したときに、取得価額の30%を特別償却するか、7%を税額控除するか、どちらかを選べる制度です。ただし、税額控除を使えるのは資本金3,000万円以下の法人と個人事業主に限られます

中小企業経営強化税制。 経営力向上計画の認定を受けたうえで対象設備を取得すると、即時償却(取得価額の全額を初年度に損金)か、10%の税額控除(資本金3,000万円超1億円以下は7%)を選べます。計画の認定という手間がかかる分、効果は大きい制度です。

このほかにも、研究開発税制のように、業種や取り組みの内容に応じた制度がありますが、中小企業でよく使われるのはこの3つです。まずはこの3つを押さえておけば、自社に関係する制度を見落とすことは少なくなります。

3. どの制度にも共通するルール

制度ごとに要件は違いますが、共通する枠組みがあります。ここを押さえておくと、新しい制度が出てきても理解が早くなります。

共通ルール1:青色申告が前提。 これらの優遇制度は、すべて青色申告をしている法人が対象です。青色申告の承認申請は、事業年度開始の日の前日まで(設立初年度は設立から3か月以内など)に出す必要があります。実務講座⑰でも触れましたが、届出は後から取り戻せません

また、「中小企業者等」に当たるかどうかの判定にも注意が必要です。資本金1億円以下でも、大企業に一定割合以上を出資されている法人は対象から外れます。さらに、前3事業年度の所得金額の平均が年15億円を超える法人(適用除外事業者)も、多くの優遇措置を使えません。資本金の額だけで判断しないという点は、押さえておきましょう。

共通ルール2:控除の上限は法人税額の20%。 どれだけ大きな控除額を計算できても、その年の法人税額の20%までしか控除できません。赤字で法人税額がゼロなら、税額控除も使えません。ここが損金算入との大きな違いです。損金は赤字でも繰越欠損金として将来に持ち越せますが(実務講座⑥)、税額控除は原則としてその年限りです。

なぜ上限があるのでしょうか。税額控除は税金を直接減らす強い効果を持つので、無制限に認めると法人税がゼロになる会社が続出しかねません。政策として企業を後押ししつつ、最低限の税負担は確保する――そのバランスを取るための線引きが、この20%だと考えると理解しやすくなります。

ただし、賃上げ促進税制については例外があります。控除しきれなかった額を5年間繰り越せる制度が設けられました。赤字の年に賃上げをしても、将来黒字になったときに取り戻せる仕組みです。ただし、繰り越した控除を使う年も、賃上げを継続していることが要件になります。

共通ルール3:申告書に明細書の添付が必要。 税額控除は、申告書に該当する別表(別表六の各様式)と適用額明細書を添付して、はじめて適用されます。要件を満たしていても、書類を付け忘れれば適用できません。しかも、後から修正申告で追加することは原則できません。

なお、複数の制度を同時に使えるかどうかは、制度ごとに決まっています。たとえば、賃上げ促進税制と設備投資の税額控除は、要件を満たせば併用できます。一方、同じ設備について投資促進税制と経営強化税制の両方を使うことはできません。同じ対象には1つ、違う対象なら重ねられる、と考えておくと整理しやすくなります。判断に迷うときは、それぞれの制度の適用要件を確認してください。

4. 特別償却と税額控除、どちらを選ぶか

特別償却と税額控除の違い:特別償却は損金を前倒しする課税の繰延べ、税額控除は税額そのものが減る。トータルの節税額は税額控除が有利。

▲ 特別償却と税額控除の違いを示した図。特別償却は初年度に多くの減価償却費を計上できるものの、その分だけ翌年以降の償却費が減るため、トータルで見れば損金の前倒しにすぎず課税の繰延べであるのに対し、税額控除は税額そのものが減るため、トータルの節税効果は税額控除のほうが大きいことを表す。

投資促進税制も経営強化税制も、特別償却と税額控除のどちらかを選ぶ形になっています。どちらが有利でしょうか。

特別償却(即時償却を含む)は、初年度に多くの減価償却費を計上できる制度です。ただし、理論講座⑤で見たとおり、トータルで損金になる金額は変わりません。初年度に多く償却すれば、その分だけ翌年以降の償却費は減ります。つまり、課税の繰延べです。

税額控除は、税額そのものが減ります。翌年以降に取り戻されることはありません。

したがって、トータルの節税額で見れば、税額控除のほうが有利です。1,000万円の設備なら、7%の税額控除で70万円の税金が減り、それは戻ってきません。一方、特別償却は当期の税金を減らしますが、将来の税金が増えるだけです。

では、なぜ特別償却を選ぶ会社があるのでしょうか。手元資金を早く確保したい場合です。設備投資の直後は資金が減っている時期なので、初年度の納税を抑えられる意味は小さくありません。また、その年だけ利益が突出しているなら、高い税率が適用される部分を圧縮できるという考え方もあります。赤字で法人税額が出ない年も、税額控除は使えないので、特別償却を選ぶことになります。

原則は税額控除、資金繰りを優先するなら特別償却、赤字なら特別償却――こう覚えておけば、判断の出発点になります。

5. 制度は変わり続ける

この分野を扱ううえで、いちばん大事な心構えをお伝えします。税額控除の制度は、頻繁に変わります。

理論講座③で見たとおり、政策目的の制度は租税特別措置法に置かれ、適用期限つきで見直されます。税額控除はまさにその典型です。実際、賃上げ促進税制は近年だけでも大きく変わっています。令和6年度改正で中小企業向けに5年間の繰越控除が新設され、令和8年度改正では教育訓練費による10%の上乗せが廃止されました。その結果、中小企業向けの最大控除率は45%から35%に下がっています。大企業向けの制度に至っては、期限を待たずに廃止されました。

つまり、去年の知識がそのまま使えるとは限らないということです。だからこそ、記事や書籍で覚えた率をそのまま当てはめるのは危険で、適用する年の最新情報を、中小企業庁や経済産業省、国税庁のサイトで確認する必要があります。

そのうえで、実務の進め方としては次の順序が現実的です。まず、投資や賃上げの意思決定を先にすること。税制があるから設備を買う、という順序では本末転倒です。事業として必要な投資かどうかを判断したうえで、使える制度があれば適用する。次に、期の途中で確認すること。決算になってから「使えたのに」と気づいても遅い制度が多いからです。特に経営力向上計画の認定は、設備の取得前に手続きを始める必要があります。

そして、毎年一度は棚卸しをすること。前期に使った制度が今期も使えるとは限りませんし、逆に新しい制度が始まっていることもあります。決算の少し前に、中小企業庁のサイトで自社に関係しそうな制度を眺めておくだけでも、取りこぼしはかなり減ります。

6. まとめ:税額控除の要点

  • 損金算入は所得を減らす、税額控除は税額を直接減らす。実効税率33%なら、100万円の損金で減る税金は約33万円だが、100万円の税額控除なら100万円減る
  • 中小企業の主な制度は3つ。賃上げ促進税制(給与総額1.5%増で15%、2.5%増で30%、認定で+5%)、中小企業投資促進税制(30%特別償却または7%税額控除)、中小企業経営強化税制(即時償却または10%〔7%〕税額控除)。
  • 共通ルールは、青色申告が前提/控除上限は法人税額の20%/申告書に明細書の添付が必要赤字なら税額控除は使えない(賃上げ促進税制のみ5年間の繰越あり)。
  • 「中小企業者等」の判定は資本金だけでは決まらない。大企業の子会社や、前3年平均所得が年15億円を超える法人は対象外になることがある。
  • 同じ対象には1つ、違う対象なら重ねられるのが原則。賃上げと設備投資のように性質が違えば併用でき、同じ設備に2つの制度は使えない。
  • 特別償却は課税の繰延べ、税額控除は税額そのものが減る。トータルでは税額控除が有利。資金繰りを優先するなら特別償却。
  • 制度は頻繁に改正される。賃上げ促進税制も令和8年度改正で最大控除率が45%から35%に低下した。適用する年の最新情報を必ず確認する

税額控除は、うまく使えば効果の大きい制度です。ただし、要件が細かく、書類の添付を忘れれば適用できず、しかも毎年のように内容が変わります。だからこそ、「こういう制度がある」という枠組みだけ持っておいて、実際に使う段階では最新情報を確認する――この向き合い方が現実的です。次回は、赤字が出た年をどう扱うか、繰越欠損金と青色申告の関係を取り上げます。

  • 前回:【法人税の理論講座⑨】損金になる経費・ならない経費をわかりやすく解説
  • 次回:【法人税の理論講座⑪】同族会社とは?別表二・留保金課税をわかりやすく解説

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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。記載の控除率・要件・適用期限は執筆時点のものであり、制度は改正されることがあります。特に税額控除の制度は毎年のように見直されるため、実際の適用にあたっては、その事業年度に適用される最新の内容を中小企業庁・経済産業省・国税庁等で確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

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