「法人税の税率は23.2%、中小企業なら800万円以下は15%」――理論講座①でそう見ました。でも、この率だけで会社の税負担が分かるわけではありません。
実務講座⑭で見たとおり、会社は法人税のほかに、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税を納めています。これらをすべて合わせて、所得に対して実質的に何%を負担しているのかを示すのが、実効税率です。
今回は、この実効税率の意味と計算式、そして中小企業にとっての「800万円の壁」を整理します。数字の暗記ではなく、なぜそういう計算になるのかを理解しておくと、利益計画にも使えるようになります。
1. 実効税率とは ― すべてを合わせた本当の負担率
実効税率は、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税を合わせた実質的な負担率。法人税率だけを見ても、実際の負担は分かりません。

▲ 実効税率が何を含むのかを示した図。会社の所得に対してかかる税金には、国税である法人税と地方法人税、地方税である法人住民税の法人税割、法人事業税、そして特別法人事業税があり、これらをすべて合わせて所得に対する実質的な負担率を示したものが実効税率であることを表す。
会社が所得に対して納める税金を並べてみましょう。
法人税(国税)が原則23.2%、中小法人は年800万円以下の部分が15%。地方法人税(国税)が法人税額の10.3%。法人住民税の法人税割(地方税)が法人税額の7.0%(道府県1.0%+市町村6.0%、標準税率)。法人事業税(地方税)が所得の3.5%〜7.0%。そして特別法人事業税が事業税額の37%。
このうち、地方法人税と住民税の法人税割は、所得ではなく法人税額に対してかかります。だから、単純に率を足し算しても本当の負担率は出ません。それぞれの計算の土台が違うからです。
そこで、すべてを所得に対する率に換算して合計したものが、実効税率です。これを見れば、「所得が100万円増えたら、税金は何万円増えるのか」が分かります。利益計画や納税資金の見積もりに使えるのは、法人税率ではなく実効税率のほうです。
2. 計算式の意味 ― なぜ分母に事業税が入るのか
実効税率の計算式は、次のようになります。
実効税率 = {法人税率 ×(1+地方法人税率+住民税法人税割率)+事業税率+特別法人事業税率}÷(1+事業税率+特別法人事業税率)
分子は、これまで見てきた税をすべて所得に対する率に直したものです。法人税率に(1+10.3%+7.0%)を掛けているのは、地方法人税と住民税が法人税額に対してかかるからです。
問題は分母です。なぜ1ではなく、(1+事業税率+特別法人事業税率)で割るのでしょうか。
分母に事業税が入る理由。事業税は翌期に損金算入されるため、その分だけ翌期の所得が減り、税負担が軽くなる。この効果を織り込むために分母で割る。

▲ 実効税率の計算式で分母に事業税と特別法人事業税が入る理由を示した図。法人税と法人住民税は損金にならないのに対し、法人事業税と特別法人事業税は翌期に損金算入されるため、その分だけ翌期の所得が減って税負担が軽くなること、この損金算入の効果を織り込むために計算式の分母で割っていることを表す。
答えは、実務講座⑭で見た論点にあります。事業税と特別法人事業税は、翌期に損金算入されるからです。
法人税と住民税は損金になりません。払っても、所得を減らす効果はない。ところが事業税は違います。納めた事業税は、翌期の損金になり、その分だけ翌期の所得が減ります。所得が減れば、税金も減る。つまり、事業税を払うこと自体が、将来の税負担を軽くする効果を持っているわけです。
この効果を織り込まなければ、実際の負担を過大に見積もることになります。そこで、分母を(1+事業税率+特別法人事業税率)にして割ることで、損金算入の効果を反映させているのです。
ここから、もうひとつ用語が出てきます。表面税率です。これは、損金算入効果を考慮せずに、そのまま単純に合計した率のことをいいます。分母で割らないので、表面税率のほうが実効税率より高くなります。実務で判断に使うのは、実効税率のほうです。名前は「表面」のほうが分かりやすそうに見えますが、実態を表しているのは実効税率だと覚えておきましょう。
3. 中小企業の「800万円の壁」
中小企業の実効税率は、所得の水準で大きく変わります。
中小法人の実効税率の目安:所得400万円以下は約21%台、400万円超800万円以下は約23%台、800万円超は約33〜34%。800万円を境に10ポイント以上跳ね上がる。

▲ 中小法人の実効税率が所得の水準によって変わることを示した図。所得400万円以下の部分は約21%台、400万円超800万円以下の部分は約23%台であるのに対し、800万円を超える部分は約33%から34%となり、800万円を境に実効税率が10ポイント以上跳ね上がることを表す。
理由は2つあります。ひとつは、法人税の軽減税率が年800万円以下の部分にしか使えないこと(15%と23.2%の差)。もうひとつは、事業税の税率が段階的に上がること(3.5%→5.3%→7.0%)。この2つが重なるため、800万円のところで負担率が大きく変わります。
具体的な目安を挙げると、所得400万円以下の部分は約21%台、400万円超800万円以下の部分は約23%台、800万円を超える部分は約33〜34%(東京都で超過税率が適用される場合は約34.59%)です。800万円を境に、10ポイント以上跳ね上がることになります。
ここで注意したいのは、これが超過累進のような段階構造だという点です。所得が900万円になったからといって、900万円全体に33%がかかるわけではありません。800万円までの部分は低い率、超えた100万円だけが高い率です。理論講座①で見た所得税の超過累進と同じ考え方で、「800万円を1円超えたら急に損をする」ということはありません。
とはいえ、超えた部分の税率が大きく変わるのは事実です。だから多くの中小企業が、決算前に所得を確認し、800万円前後の水準にあるなら、支出の前倒しや制度の活用を検討します。実効税率を知っていれば、その判断が数字でできるようになります。
4. 実際に計算してみる
数字を当てはめて確かめてみましょう。標準税率を使い、所得800万円を超える部分について計算します。
分子は、法人税率23.2%に(1+地方法人税10.3%+住民税7.0%)を掛けて、そこに事業税7.0%と特別法人事業税(7.0%×37%=2.59%)を足します。計算すると0.3680です。分母は、1+7.0%+2.59%で1.0959。
0.3680 ÷ 1.0959 = 約33.58%。これが、標準税率で計算した中小法人の800万円超の実効税率です。所得が100万円増えれば、税金はおよそ33万円増える、という見方ができます。
同じように計算すると、所得400万円以下の部分(法人税15%・事業税3.5%)は約21.37%、400万円超800万円以下の部分(法人税15%・事業税5.3%)は約23.17%になります。
分母で割る前の数字(表面税率)と比べると、違いがよく分かります。分子の0.3680は36.80%ですが、分母で割ると33.58%まで下がる。この3ポイントほどの差が、事業税の損金算入効果です。決して小さくない金額なので、無視できません。
なお、東京都のように超過税率を採用している自治体では、この率がもう少し高くなります(中小法人の800万円超で約34.59%)。自社の実効税率を知りたければ、本店所在地の自治体の税率表を使って計算するのが正確です。
5. 防衛特別法人税の影響
2026年4月1日以後に開始する事業年度から、防衛特別法人税が始まりました。法人税額を土台に、年500万円を控除した額に4%を課す付加税です。
これは法人税額に上乗せされるものなので、実効税率にも影響します。試算では、法定実効税率は約0.8〜1.0ポイント上昇します。東京都の大企業でいえば約30.62%から約31.52%へ、中小法人の超過税率ベースでは約34.59%から約35.43%へ、という水準です。
ただし、多くの中小企業にとっては、実際の負担は生じません。年500万円の基礎控除があるため、法人税額が500万円以下なら課税されないからです。中小法人の軽減税率を前提にすると、課税所得がおよそ2,400万円以下であれば、防衛特別法人税は発生しない計算になります。
注意したいのは、税額がゼロでも申告は必要だという点です。「うちには関係ない」と思って手続きを飛ばすと、申告漏れになりかねません。実務講座⑰でも触れたとおり、手続きの抜けは知識の問題ではなく段取りの問題なので、決算のチェックリストに入れておきましょう。
なお、上の数字は法定実効税率という「表向きの率」の話です。基礎控除500万円を考慮した実際の負担は、所得の水準によって変わります。中小企業の場合、実効税率の議論に防衛特別法人税を織り込む必要が出てくるのは、所得がかなり大きくなってからです。自社が対象になるかどうかは、資本金の大きさではなく、法人税額が500万円を超えるかどうかで決まります。決算の見通しが立った段階で、法人税額の見込みを確認しておけば、影響の有無はすぐ判断できます。
6. 実効税率の使いどころ
実効税率は、単なる知識ではなく、実際に使える道具です。
納税資金の見積もり。 決算の見通しが立った段階で、所得の見込みに実効税率を掛ければ、おおよその納税額が出ます。実務講座⑯で見たとおり、法人税・地方税・消費税は同じ時期にまとめて来るので、早めに資金を確保しておく必要があります。実効税率を知っていれば、この見積もりが数分でできます。
設備投資や役員報酬の判断。 支出を1万円増やすと、税金はいくら減るのか。実効税率が33%なら、1万円の損金は約3,300円の節税につながります。逆にいえば、節税のために10万円使っても、手元に戻るのは3万円程度だということです。「税金を減らすために使う」という発想が危うい理由も、実効税率で説明できます。
繰延税金資産の計算。 会計で税効果会計を適用している会社では、一時差異に実効税率を掛けて繰延税金資産・負債を計算します。理論講座④で見た留保(一時差異)が対象で、社外流出(永久差異)は対象外です。防衛特別法人税のように将来の税率が変わる要素があるときは、解消時期に応じた率を使うことになります。
ただし、実効税率はあくまで目安です。自治体によって超過税率があり、均等割は所得に関係なくかかり、税額控除があれば負担はさらに変わります。自社の実効税率を一度計算しておくと、以後の判断がぐっと速くなります。
もうひとつ、実効税率には表れないものがあります。均等割です。実務講座⑭で見たとおり、法人住民税の均等割は所得に関係なく年7万円程度かかります。実効税率は「所得に対する率」なので、所得ゼロなら税額もゼロという計算になりますが、実際には均等割が残る。赤字でも税金はゼロにならないという現実は、実効税率だけを見ていると見落とします。
消費税も同じです。実務講座⑮で見たとおり、消費税は取引にかかる税なので、実効税率の計算には入っていません。納税資金を見積もるときは、実効税率で計算した法人税等に、消費税と均等割を足して考える必要があります。実効税率は便利な道具ですが、それだけで全部が見えるわけではないという点は、押さえておきましょう。
7. まとめ:実効税率の要点
- 実効税率=法人税・地方法人税・住民税・事業税・特別法人事業税をすべて合わせた実質的な負担率。法人税率だけでは実際の負担は分からない。
- 計算式の分母に事業税等が入るのは、事業税が翌期に損金算入されるから。この効果を考慮しない単純合計が表面税率で、実効税率より高くなる。
- 中小法人の実効税率は所得800万円を境に大きく変わる(400万円以下 約21%台/400万円超800万円以下 約23%台/800万円超 約33〜34%)。ただし超えた部分にだけ高い率がかかる段階構造。
- 防衛特別法人税(2026年4月1日以後開始事業年度)で法定実効税率は約0.8〜1.0ポイント上昇。ただし年500万円の基礎控除があり、中小の多くは実質負担なし。税額ゼロでも申告は必要。
- 使いどころは納税資金の見積もり・支出の判断・繰延税金資産の計算。自治体差があるので、自社の実効税率を一度計算しておくとよい。
- ただし実効税率に表れないものもある。所得に関係なくかかる均等割(年7万円程度)や、取引にかかる消費税は別枠。納税資金は、実効税率で出した金額にこれらを足して見積もる。
- 標準税率で計算すると、中小法人の800万円超は約33.58%。分母で割る前の36.80%との差、約3ポイントが事業税の損金算入効果にあたる。
実効税率は、税率の話でありながら、経営判断の道具でもあります。「利益が100万円増えたら、手元に残るのはいくらか」を即答できるかどうかで、資金繰りの精度は変わります。次回は、その利益を生み出す元の数字――損益計算書と貸借対照表の読み方を取り上げます。
- 前回:【法人税の理論講座⑥】益金不算入・損金不算入とは?をわかりやすく解説
- 次回:【法人税の理論講座⑧】損益計算書・貸借対照表の読み方をわかりやすく解説
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。記載の税率は標準的な場合を想定した目安であり、実際の負担は本店所在地の自治体(超過税率の有無)や法人の状況により異なります。税率・制度は改正されることがあります。実際の判断にあたっては、最新の情報を国税庁・自治体等で確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。