【法人税の理論講座②】役員給与はなぜ損金にならない?定期同額給与をわかりやすく解説

従業員に払う給与は、全額が経費になります。ところが、社長に払う給与は、原則として損金になりません。同じ「人件費」なのに、扱いがまったく違うのです。

なぜでしょうか。この「なぜ」が分かると、定期同額給与という聞き慣れない言葉も、「3か月以内に決めなければならない」という一見不便なルールも、すべて筋が通って見えてきます。今回は、役員給与のルールを、その趣旨から解きほぐしていきます。

目次

1. なぜ役員給与は原則損金にならないのか

役員給与が原則損金不算入とされる理由:役員は自分の給与を自分で決められるため、利益が出そうな年に給与を増やせば法人税を自由に調整できてしまう(お手盛り)。だから一定のルールを満たしたものだけを損金にする。

▲ 役員給与が原則として損金不算入とされる理由を示した図。役員は自分の給与の額を自分で決められる立場にあるため、利益が多く出そうな年に給与を増やせば法人税の負担を自由に調整できてしまうこと、こうしたお手盛りによる利益操作を防ぐために、あらかじめ定めたルールを満たす給与だけを損金として認める仕組みになっていることを表す。

まず、従業員の給与を考えてみましょう。従業員の給与は、雇う側と雇われる側の交渉で決まります。社長が「今年は利益が出そうだから、君の給料を年末に300万円上乗せしよう」と言い出すことは、まずありません。会社にとって給与は負担であり、支払う側には抑えたい動機が働くからです。だから、従業員の給与は自然と適正な水準に落ち着き、全額が損金になります。

ところが、役員は違います。役員は、自分の給与の額を、自分たちで決められる立場にあります。 中小企業の多くは、社長がそのまま株主でもあります。株主総会で決議するといっても、実質的には社長が自分で決めているのと同じです。

ここで、もし役員給与が自由に損金になるとしたら、どうなるでしょうか。決算が近づいて「今年は利益が3,000万円出そうだ」と分かったとき、社長が自分に3,000万円の賞与を出せば、会社の利益はゼロになり、法人税もゼロになります。逆に、赤字の年は役員給与を下げておけばいい。つまり、利益をあとから自由に調整できてしまうのです。

これを税法では「お手盛り」と呼びます。自分で自分の取り分を盛る、という意味です。お手盛りを放置すれば、法人税は事実上、払いたい人だけが払う税金になってしまいます。だから法人税法は、役員給与を原則として損金不算入とし、一定のルールを満たすものだけを例外的に損金に認めるという組み立てにしました。

ここが理解の分かれ目です。役員給与のルールは、「経営者をいじめるため」にあるのではありません。「あとから利益を調整させないため」にあります。だから、ルールの中身は一貫して「事前に決めて、そのとおりに払う」という形をとっているのです。

2. 損金にできる3つの類型

損金算入できる役員給与は3類型。定期同額給与(毎月同額)、事前確定届出給与(事前に届け出た賞与)、業績連動給与(上場企業向け)。中小が使うのは前の2つ。

▲ 損金算入が認められる役員給与の3つの類型を示した図。毎月同じ額を支給する定期同額給与、あらかじめ税務署に届け出た時期と金額で支給する事前確定届出給与、利益などの指標に連動して支給する業績連動給与の3つがあり、業績連動給与は同族会社が使えないなど要件が厳しいため、中小企業が実際に使うのは定期同額給与と事前確定届出給与の2つであることを表す。

法人税法は、損金にできる役員給与を3つに限定しています。

定期同額給与。 毎月同じ額を支給する給与です。金額が動かないので、利益調整に使えません。中小企業の役員報酬は、ほぼこれです。

事前確定届出給与。 役員に賞与を出したいときに使う制度です。「いつ、いくら払うか」をあらかじめ決めて税務署に届け出ておき、そのとおりに支給すれば損金になります。事前に確定させておくので、これも利益調整に使えません。

業績連動給与。 利益などの指標に連動して支給する給与です。ただし、同族会社は原則として使えず、報酬の算定方法を有価証券報告書で開示するなどの要件があるため、実質的に上場企業向けの制度です。中小企業には縁がないと考えて構いません。

3つ並べると、共通点が見えてきます。定期同額給与は「金額が動かないから」、事前確定届出給与は「事前に確定しているから」、業績連動給与は「客観的な指標と開示によって恣意性が排除されているから」損金になる。どれも、あとから都合よく決められないという点で共通しているのです。第1章で見た趣旨が、そのまま制度の形になっています。

3. 定期同額給与 ― 3か月ルールの意味

定期同額給与の改定は、事業年度開始から3か月以内が原則。3月決算なら6月末まで。期中の増額は、増額分が損金不算入になる。

▲ 定期同額給与の改定時期のルールを示した図。役員報酬の改定は事業年度開始の日から3か月以内に行うのが原則であり、3月決算の会社なら6月末までに決める必要があること、この期間を過ぎてから増額した場合には増額した部分が損金不算入となることを表す。

中小企業がいちばん関係するのが、定期同額給与です。要件はシンプルで、支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、事業年度内の各支給額が同額であること。要するに、毎月同じ日に、同じ額を払う、ということです。

問題は、金額を変えたいときです。ここに、有名な3か月ルールがあります。役員報酬の改定は、事業年度開始の日から3か月以内に行うのが原則です。3月決算の会社なら、6月末まで。定時株主総会で決議して、その期はその金額で通します。

なぜ3か月なのでしょうか。決算が固まり、株主総会で前期の業績が確定してから新年度の報酬を決める――という会社の実態に合わせた期間です。そして重要なのは、期の初めに決めるということは、その期の利益がまだ分からない段階で決めるということです。利益が見えてから金額をいじれないようにする。ここでも趣旨は一貫しています。

では、3か月を過ぎてから増額したらどうなるか。増額した部分が損金不算入になります。たとえば月50万円だった報酬を、期の途中で70万円に上げた場合、上乗せした20万円分が、その後の各月について損金になりません。全額が否認されるわけではないので、そこは救いですが、思わぬ加算が発生します。

減額の場合も注意が必要です。期中に減額すると、減額前に多く払っていた部分が損金不算入とされることがあります。「下げるのだから問題ないだろう」とはならないのです。

4. 期中に変えられる2つの例外

とはいえ、期の途中でどうしても報酬を変えざるを得ない場面はあります。法人税法は、2つの例外を認めています。

臨時改定事由。 役員の職制上の地位の変更や、職務内容の重大な変更があった場合です。たとえば、専務が社長に就任した、病気で職務を離れることになった、といったケース。役割が変わったのだから報酬も変わる、というのは自然な話なので、期中の改定が認められます。

業績悪化改定事由。 経営状況が著しく悪化した場合です。ただし、ここはかなり厳格です。単に「今期は赤字になりそうだから減らす」という理由では認められません。想定されているのは、取引銀行との関係で経営改善計画を作り、その一環として役員報酬を減額する場合や、取引先や株主といった第三者との関係でやむを得ず減額する場合などです。つまり、社内の都合ではなく、外部との関係で減額せざるを得ない状況であることが求められます。

どちらの例外を使う場合も、事由が客観的に確認できる資料を残しておくことが決定的に重要です。株主総会や取締役会の議事録、経営改善計画、月次試算表の推移、金融機関とのやりとりの記録。税務調査で問われるのは「なぜそのタイミングで変えたのか」であり、答えられるのは書類だけです。口頭の説明では通りません。

5. 事前確定届出給与 ― 届出どおりに払う

役員に賞与を出したいときに使うのが、事前確定届出給与です。

仕組みは単純で、「◯月◯日に、◯◯万円を支給する」とあらかじめ決議し、税務署に届け出ておく。そして、そのとおりに支給すれば損金になります。

大事なのが届出の期限です。原則として、株主総会などの決議をした日から1か月を経過する日と、事業年度開始の日から4か月を経過する日の、いずれか早い日までに提出しなければなりません。3月決算の会社が5月の株主総会で決議したなら、6月末までが期限です。この期限を1日でも過ぎれば、その年は損金にできません。

そして、いちばん怖いのが届出どおりに支給しなかった場合です。届け出た金額と1円でも違ったり、届け出た日と1日でもずれたりすると、原則としてその役員に支給した金額の全額が損金不算入になります。「予定より少なく払ったのだから、少ない分は認められるだろう」とはなりません。少なくしても、多くしても、全額アウトです。

ここでよくある失敗が、「資金繰りが厳しくなったので、届け出た300万円を200万円に減らして支給した」というケースです。この場合、200万円全額が損金不算入になります。一方、まったく支給しない(不支給とする)のであれば、そもそも損金算入の対象がないだけで、問題は生じません。減らすくらいなら、払わない。 これが実務の鉄則です。

裏を返せば、届け出る金額は「業績が悪くても確実に払える額」に抑えておくのが安全だということです。事前確定届出給与は、節税策というより、設計してそのとおり運用する制度だと考えてください。

6. 実務で気をつけたいこと

最後に、周辺の論点を押さえておきましょう。

みなし役員に注意。 登記上は役員でなくても、経営に従事していて一定の株式を持っている人は、税務上の役員(みなし役員)として扱われます。社長の配偶者を「従業員」として雇い、賞与を出していたところ、みなし役員と判断されて賞与が損金不算入になる――同族会社で起きやすい失敗です。

使用人兼務役員という選択肢。 取締役でありながら部長などの使用人としての職務も持つ人は、使用人分の給与を損金にできます。ただし、社長や代表取締役、同族会社の一定の役員は使用人兼務役員になれません。

高すぎる役員給与は否認される。 ルールを守っていても、職務の内容や会社の規模に比べて不相当に高額な部分は、損金不算入とされます。同業他社と比べて明らかに高い、実際には勤務実態がない、といった場合が対象です。

税金だけで決めない。 役員報酬を上げれば法人税は下がりますが、その分、個人の所得税・住民税と社会保険料が増えます。理論講座①で見たとおり、所得税は累進なので、上げすぎると個人側の負担が急に重くなります。法人税・所得税・社会保険料の3つを合わせた総額で考えるのが、正しい設計です。

7. まとめ:役員給与のルールの要点

  • 役員給与が原則損金不算入なのは、役員が自分の給与を自分で決められるから(お手盛りによる利益調整の防止)。ルールはすべて「事前に決めて、そのとおりに払う」という形をしている。
  • 損金にできるのは3類型(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)。中小が使うのは前の2つで、業績連動給与は実質的に上場企業向け。
  • 定期同額給与の改定は、事業年度開始から3か月以内が原則(3月決算なら6月末)。期中に増額すると、増額部分が損金不算入。
  • 期中改定の例外は臨時改定事由(地位・職務の重大な変更)と業績悪化改定事由(外部との関係でやむを得ない著しい悪化)。議事録などの証拠を必ず残す
  • 事前確定届出給与は、届出期限(決議日から1か月と期首から4か月の早い日)を厳守。届出と1円・1日でも違えば全額損金不算入。減らすくらいなら不支給にする。

役員給与のルールは、細かくて窮屈に見えます。でも、その根っこにあるのは「利益が見えてから税金を調整させない」という、たったひとつの考え方です。この一本の筋を押さえておけば、個別の要件も暗記ではなく理解として身につきます。次回は、同じ「損金にならない費用」の代表である交際費を取り上げ、なぜ限度額という形で制限されるのかを見ていきます。

  • 前回:【法人税の理論講座①】法人税・所得税・消費税の違いをわかりやすく解説
  • 次回:【法人税の理論講座③】交際費の損金算入限度額はなぜあるのか?をわかりやすく解説

あわせて読みたい

  • 【法人税の基礎講座⑥】役員給与・交際費の損金不算入をわかりやすく解説
  • 【法人税の実務講座⑪】別表二(同族会社の判定)の書き方をわかりやすく解説

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。記載の要件・期限は一般的な場合を想定した説明であり、実際の取扱いは法人の状況により異なります。役員給与の取扱いは改正されることがあります。実際の判断にあたっては、最新の情報を国税庁等で確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次