実務講座⑪までで、法人税の申告書本体(別表一・四・五・六・八ほか)が一通り書けるようになりました。でも、申告書はそれだけでは完成しません。決算書とあわせて、勘定科目内訳明細書(内訳書)という添付書類を付けて、はじめて一式がそろいます。今回は、この内訳書とは何か、どの科目を・どこまで書けばよいのかを、サンプル株式会社の例で見ていきましょう。
内訳書は、貸借対照表や損益計算書に並ぶ数字を、「誰と・いくら」に分解して示す書類です。たとえば貸借対照表に「売掛金 150万円」と1行で書いてあっても、それが誰への売掛金なのかは分かりません。その中身を、取引先ごとに分けて見せるのが内訳書の役割です。
1. 勘定科目内訳明細書とは ― 決算書を「誰と・いくら」に分解する
決算書の売掛金1行を、取引先ごとに分解するのが内訳書:貸借対照表に「売掛金150万円」とあるのを、内訳書でアルファ商事80万円・ベータ広告55万円・その他15万円のように相手先ごとに示す。誰への債権かを明らかにする。

▲ 内訳書が決算書の数字を相手先ごとに分解する書類であることを示した図。貸借対照表に「売掛金150万円」と1行で載っている金額を、勘定科目内訳明細書ではアルファ商事80万円・ベータ広告55万円・その他15万円のように取引先ごとに分けて示し、誰に対する債権なのかを明らかにすることを表す。
勘定科目内訳明細書は、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)の勘定科目の内訳を示した書類です。法人税の確定申告のとき、申告書本体や決算書とあわせて税務署に提出する、添付書類のひとつです。
なぜ、こんな書類が要るのでしょうか。決算書には「売掛金 150万円」「買掛金 80万円」といった合計額だけが載っています。でも税務署は、その150万円が誰への債権なのか、本当に実在する取引なのかを確かめたい。そこで、勘定科目ごとに「相手先の名称・所在地・金額」を一覧にして示すのが内訳書です。架空の売上や、回収できない売掛金が紛れていないか、取引の実在性をチェックするための資料、と考えると分かりやすいです。
内訳書は、税務署に出すだけのものではありません。銀行融資の審査でも、金融機関はこの内訳書を見て、取引先の顔ぶれや債権・債務の中身を確かめます。決算書の数字の「中身」を説明する書類として、対外的にも大きな意味を持ちます。
2. 全16種類 ― 該当するものだけ作る
内訳書には、勘定科目ごとに全部で16種類の様式があります。ただし、16種類すべてを作る必要はありません。自社に残高や取引がある科目だけを作ればよいのです。
中小企業がよく作る内訳書(預貯金・売掛金・買掛金・借入金・役員給与・地代家賃など)。手形や有価証券を扱っていなければ、その内訳書は作らない。ある科目だけ作るのが基本。

▲ 全16種類のうち中小企業がよく作る内訳書を示した図。預貯金等・売掛金・買掛金・借入金及び支払利子・役員給与等・地代家賃等などが中心で、受取手形・支払手形・有価証券などは取引や残高がなければ作らないこと、自社に該当する科目だけを作るのが基本であることを表す。
おもな内訳書を挙げると、預貯金等/受取手形/売掛金(未収入金)/仮払金・貸付金及び受取利息/棚卸資産/有価証券/固定資産(土地・建物)/支払手形/買掛金(未払金・未払費用)/仮受金・預り金/借入金及び支払利子/土地の売上高等/売上高等の事業所別/役員給与等/地代家賃等・工業所有権等の使用料/雑益・雑損失等、といった様式があります。
小さなWeb制作業のような会社であれば、実際に作るのは、預貯金・売掛金・買掛金(未払金)・借入金・役員給与・地代家賃あたりに絞られることが多いでしょう。手形を使っていなければ受取手形・支払手形は不要、有価証券を持っていなければ有価証券の内訳書も要りません。「残高や取引のある科目だけ作る」が基本です。
3. 個別記載と一括記載 ― いくらから取引先別に書くか
内訳書を書くとき、いちばん迷うのが「取引先を1社ずつ書くのか、まとめてよいのか」です。ここには、科目ごとに金額の基準があります。
科目別の個別記載の基準額:売掛金・買掛金・仮払金・貸付金などは同一取引先50万円以上、受取手形・支払手形は100万円以上、雑益・雑損失は10万円以上で個別記載。基準未満は一括(その他)。基準以上が5口未満なら残高順に5口程度。株主・役員への貸付金は50万円未満でも個別。

▲ 内訳書の個別記載の基準額を示した図。売掛金・買掛金・仮払金・貸付金などは同一取引先の期末残高50万円以上、受取手形・支払手形は同一取引先合計100万円以上、雑益・雑損失は科目別・相手先別10万円以上で取引先ごとに個別記載し、基準未満は「その他」として一括記載できること、基準以上が5口未満なら残高の多い順に5口程度まで書くこと、株主・役員への貸付金は50万円未満でも個別記載が必要なことを表す。
代表的な基準はこうです。売掛金(未収入金)・買掛金(未払金・未払費用)・仮払金・貸付金などは、同一の取引先の期末残高が50万円以上なら、その取引先を個別に(1社ずつ)記載します。50万円未満の小口は、「その他」としてまとめて一括記載できます。受取手形・支払手形は、同一取引先の合計が100万円以上なら個別記載です。雑益・雑損失は、科目別・相手先別で10万円以上のものを記載します。
ひとつ覚えておきたいのが、5口ルールです。個別記載の対象(たとえば50万円以上)が5口(5件)に満たないときは、基準額に届かないものでも、残高の多い順に5口程度まで書きます。取引先が少ない小さな会社でも、上位の数件は名前を出しておく、という趣旨です。逆に、書くべき件数がとても多いときの簡素化は、次の章で説明します。
なお、株主や役員への貸付金は、特別扱いです。貸付先が株主・役員などの場合は、期末残高が50万円未満でも個別に記載する必要があります。身内への資金の動きは、金額が小さくても明らかにする、というルールです。実務講座⑪で見た同族会社では、社長への貸付金(役員貸付金)が残りがちなので、ここは取りこぼさないようにしましょう。
4. 簡素化 ― 100件を超えたら上位100件/支店別でもOK
取引先がとても多い会社のために、記載を軽くする簡素化のしくみがあります(平成30年度改正、2019年4月以後に終了する事業年度から。電子申告が義務でない中小企業にも適用されます)。
ある科目で、記載すべき件数が100件を超える場合、次のどちらかの方法を選べます。1つめは、金額の大きい順に上位100件だけを記載する方法(売掛金・買掛金など、記載量が多くなりがちな14科目が対象)。2つめは、取引先ごとではなく、自社の支店・事業所ごとの合計額で記載する方法(受取手形など、相手先単位で書く7科目が対象)。どちらを使うかは、自社にとって楽な方を選べます。
中小企業では取引先が100件を超えることは多くありませんが、「100件を超えたら全部書かなくてよい」という上限があると知っておくと安心です。また、電子申告(e-Tax)では、内訳書をCSV形式(表計算ソフトで作った一覧データ)で提出することもできます。会計ソフトを使えば、決算データから内訳書が自動で作られ、そのまま電子申告まで連携できるので、手書きで一件ずつ転記する必要はほとんどありません。
5. 主な内訳書の書き方
中小企業がよく作る内訳書について、何を書くかを押さえましょう。考え方はどれも共通で、決算書に出てくる金額を、相手先まで含めて分解する、というものです。
預貯金等の内訳書は、金融機関名・支店名・預金の種類・口座番号・期末残高を書きます。現金は、この内訳書にまとめて書くのが一般的です(決算書の現金預金と一致させるため)。
売掛金(未収入金)の内訳書は、相手先の名称・所在地・期末残高を、取引先ごとに書きます。買掛金(未払金・未払費用)の内訳書も同じ要領で、仕入先・外注先ごとに書きます。借入金及び支払利子の内訳書は、借入先(銀行など)の名称・期末残高・期中の支払利子・利率を書きます。
役員給与等の内訳書は、役員ごとの役職・氏名・支給額などを書きます。実務講座⑪のみなし役員や、役員給与のルール(定期同額給与など)とも関わる重要な書類です。地代家賃等の内訳書は、事務所や駐車場などの賃料について、貸主の名称・物件の所在地・支払賃借料を書きます。いずれも、決算書の金額の「内訳」を、相手先まで含めて示す、という考え方は同じです。
6. 作るコツと注意点
内訳書づくりでつまずかないためのコツを挙げます。
いちばん大事なのは、決算書(B/S・P/L)の金額と一致させることです。たとえば売掛金の内訳書の合計額は、貸借対照表の売掛金の金額とぴったり合っていなければなりません。個別記載分と「その他」の一括分を足した合計が、決算書の残高と一致するか――ここは必ず確認します。合わないときは、相手先の拾い漏れか、決算書側の誤りのどちらかです。
次に、相手先の情報は正確に書きます。会社名・所在地は、登記や請求書のとおりに。口座名義が代表者名になっているなど、法人名と違う場合は、摘要欄に名義人名を書きます。そして前章のとおり、株主・役員がらみの貸付金・借入金は、金額が小さくても個別に書く点に注意します。
作業のコツは、期中からの準備です。決算のときにまとめて取引先を拾い出そうとすると大変なので、日々の記帳で取引先を補助科目として登録しておくと、内訳書は決算データからほぼ自動で出せます。「決算直前に慌てて作る書類」ではなく、「日々の記帳の延長で自然にできる書類」にしておくのが理想です。
7. 記入例:サンプル株式会社
サンプル株式会社の売掛金の内訳書:期末売掛金150万円を、アルファ商事80万円(50万円以上→個別)・ベータ広告55万円(個別)・その他15万円(一括)に分解。合計150万円が貸借対照表の売掛金と一致すれば完成。

▲ サンプル株式会社の売掛金の内訳書の記入例を示した図。貸借対照表の売掛金150万円を、株式会社アルファ商事80万円(50万円以上のため個別記載)・ベータ広告株式会社55万円(個別記載)・その他の小口取引先15万円(一括記載)に分解し、個別分と一括分の合計150万円が貸借対照表の売掛金と一致することを確認すれば内訳書が完成することを表す。
サンプル株式会社(Web制作業)の売掛金を例に、内訳書を書いてみましょう。期末の売掛金は、貸借対照表で150万円だったとします。
取引先の内訳は、株式会社アルファ商事が80万円、ベータ広告株式会社が55万円、その他の小口の取引先が合計15万円だったとします。50万円以上という基準で見ると、アルファ商事(80万円)とベータ広告(55万円)が個別記載の対象です。残りの15万円は「その他」として一括で記載します。
ここで、5口ルールを思い出してください。50万円以上の取引先が2社しかなく、5口に満たないので、本来なら50万円未満の取引先も、残高の多い順に合わせて5口程度まで書くのが丁寧です。サンプル株式会社のように取引先がそもそも少ない会社では、上位の数社を個別に書き、残りを「その他」にまとめる、という形になります。
最後に、合計を確認します。アルファ商事80万円+ベータ広告55万円+その他15万円=150万円。貸借対照表の売掛金150万円と一致しました。この「内訳の合計=決算書の残高」という検算ができていれば、その内訳書は完成です。買掛金・借入金・役員給与なども、同じ要領で、相手先ごとに分解して決算書の金額に合わせていきます。
8. 仕上げのチェックポイント
- 内訳書は、決算書(B/S・P/L)の金額を「誰と・いくら」に分解する添付書類。全16種類あるが、残高・取引のある科目だけ作る。
- 個別記載の基準は、売掛金・買掛金などが50万円以上、受取手形・支払手形が100万円以上、雑益・雑損失が10万円以上。基準に届く件数が5口未満なら、残高の多い順に5口程度まで書く。
- 株主・役員への貸付金は、50万円未満でも個別に記載する。同族会社では役員貸付金が残りがちなので注意。
- 100件を超える科目は、上位100件のみ/支店・事業所別の合計で記載してよい(簡素化)。e-TaxではCSV形式でも提出できる。
会計ソフトを使えば、取引先を補助科目で管理しておくだけで、内訳書は決算データから自動で作れます。それでも、「内訳書は決算書を相手先まで分解したもの」「個別記載の基準は50万円・100万円・10万円」「合計は必ず決算書と一致させる」という骨格を理解しておけば、税務署や銀行に出す書類の意味が腹落ちし、決算直前に慌てずに済みます。内訳書は、難しい計算ではなく、日々の記帳をていねいに積み上げた結果が形になるものなのです。
まとめ:勘定科目内訳明細書を書くための要点
- 内訳書は、貸借対照表・損益計算書の金額を相手先ごとに分解して示す、法人税申告書の添付書類。取引の実在性を示し、銀行融資でも使われる。
- 全16種類あるが、残高・取引のある科目だけ作ればよい(中小は預貯金・売掛金・買掛金・借入金・役員給与・地代家賃などが中心)。
- 個別記載の基準は、売掛金・買掛金など50万円以上/手形100万円以上/雑益・雑損失10万円以上。基準以上が5口未満なら残高の多い順に5口程度。
- 株主・役員への貸付金は50万円未満でも個別記載。100件超は上位100件のみ/支店別合計で記載可(簡素化)。e-TaxはCSV提出も可。
- 最後は必ず内訳の合計=決算書の残高を検算する。日々の記帳で取引先を補助科目にしておけば、決算データからほぼ自動で作れる。
実務講座①〜⑫で、法人税の申告書本体(各別表)に加えて、決算書を相手先まで分解する勘定科目内訳明細書という添付書類まで、中小企業の申告に必要な書類が大きくそろいました。次は、もう一つの主要な添付書類――会社の事業内容や状況を1枚で示す法人事業概況説明書へ進むと、申告書一式の全体像が完成します。
- 前回:【法人税の実務講座⑪】別表二(同族会社の判定)の書き方をわかりやすく解説
- 次回:【法人税の実務講座⑬】法人事業概況説明書の書き方をわかりやすく解説
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。記入例の金額・取引先は説明のための想定であり、取扱いは法人の状況や様式により異なります。内訳書の様式・記載基準は改正されることがあります。実際の申告にあたっては、最新の様式・記載要領を国税庁等で確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。