会社が赤字(欠損金)を出した年は、税金はかかりません。それだけでなく、その赤字は捨てずに「繰越欠損金」として将来へ持ち越し、黒字が出た年の所得と相殺できます。これを管理するのが、別表七(一)です。創業期に赤字が出やすいスタートアップや、業績の波が大きい会社にとって、繰越欠損金は「将来の節税の弾」ともいえる、大切な制度です。
実務講座①〜⑤で、所得の計算(別表四)から税額(別表一)、税金の整理(別表五(二))、税務上の純資産(別表五(一))まで見てきました。今回は、赤字の年に登場する別表七(一)を、サンプル株式会社の記入例つきで解説します。
1. 別表七(一)とは ― 過去の赤字を将来の黒字と相殺する
別表七(一)は、正式名称を「欠損金又は災害損失金の損金算入等に関する明細書」といいます。過去に生じた欠損金(赤字)を、将来の黒字所得から差し引く(損金に算入する)ための別表です(法人税法57条)。
欠損金とは、税務上の所得(益金−損金)がマイナスになった金額のこと。別表四でいえば、いちばん下の「所得金額又は欠損金額」がマイナスになった場合、それが欠損金です。赤字といっても、会計上の赤字(当期純損失)と必ずしも一致せず、別表四で税務調整をしたあとの「税務上の赤字」である点に注意してください。会計は黒字でも、税務調整の結果、税務上は欠損金になる(またはその逆の)こともあります。

繰越欠損金の仕組み:赤字の年に出た欠損金(300万円)を翌期以降10年繰り越し、黒字の年の所得と相殺して課税所得・法人税を減らす。中小法人は所得の100%まで相殺できる。
▲ 繰越欠損金のイメージを示した図。ある年に赤字(欠損金)が出ると、その金額を翌期以降に繰り越し、将来の黒字が出た年の所得から差し引くことで、その年の課税所得とそれにかかる法人税を減らせることを表す。
たとえば、創業1年目に300万円の赤字を出し、2年目に200万円の黒字、3年目に500万円の黒字が出たとします。繰越欠損金がなければ、2年目・3年目はそれぞれの黒字に課税されます。しかし繰越欠損金を使えば、1年目の赤字300万円を2年目・3年目の黒字とぶつけて、課税所得を減らせます。結果として、納める法人税を大きく抑えられるわけです。
なぜこんな制度があるのでしょうか。会社の業績は、年によって波があります。10年トータルでは利益が出ていても、年単位で区切って黒字の年だけに課税すると、赤字の年が報われず、税負担が重くなりすぎます。そこで、赤字を将来へ繰り越して黒字とならすことで、長い目で見た担税力に合った課税にする――これが繰越欠損金の趣旨です。なお会計の世界では、この将来の節税効果を「繰延税金資産」として貸借対照表に計上することもあります。
2. 3つのルール ― 繰越10年・中小100%・古い順
繰越欠損金には、押さえるべき3つのルールがあります。

繰越欠損金の3つのルール:①繰越期間は10年(平成30年4月以後の事業年度。それ以前は9年)、②控除限度額は中小100%・大法人50%、③複数年度は古い年度から順に控除。
▲ 繰越欠損金の3つのルールを示した図。繰越期間は10年(平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金。それ以前は9年)、控除限度額は中小法人等が所得の100%・大法人が所得の50%、複数年度の欠損金は古い年度から順に控除することを表す。
① 繰越期間は10年。平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は、10年間繰り越せます(それより前に生じたものは9年)。10年を過ぎると、使い切れなかった欠損金は消えてしまいます。
② 控除限度額は、中小は100%・大法人は50%。資本金1億円以下などの中小法人等は、当期の所得の100%まで繰越欠損金を控除できます。つまり、過去の欠損金が十分にあれば、当期の黒字を全額相殺して、課税所得を0円にすることも可能です。一方、資本金1億円超などの大法人は、当期の所得の50%が限度。残り半分には必ず課税されます。なお、資本金1億円以下でも、大法人に100%支配されている会社は「みなし大企業」として50%になる点に注意してください。
③ 古い欠損金から順に使う。複数の年度に欠損金があるときは、いちばん古い年度のものから順番に控除します。古いものほど、繰越期間(10年)の期限切れが近いためです。
なお、繰り越せる欠損金には、青色申告の年に生じた「青色欠損金」のほかに、白色申告でも繰り越せる「災害損失欠損金」(震災・風水害・火災などによる損失)もあります。ただし、中小企業の通常の赤字は、青色欠損金として扱うのが基本です。
3. 適用するための要件 ― 青色申告が大前提
繰越欠損金を使うには、要件があります。中心になるのは青色申告です。
- ① 欠損金の年に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していること。繰り越せるのは「青色申告の年に出た欠損金(青色欠損金)」が基本です。白色申告の年の赤字は、原則として繰り越せません(災害損失金など一部の例外を除く)。
- ② 帳簿書類等を保存していること。繰越欠損金にかかわる帳簿書類は、10年間の保存が必要です。
- ③ 別表七(一)を添付すること。繰越欠損金を使う年も、赤字を繰り越すだけの年も、別表七(一)を申告書に付けて、残高を引き継いでいきます。
ここで大事なのが、赤字の年であっても、青色申告で確定申告を出し続けることです。申告を1年でも飛ばすと、繰越欠損金が使えなくなるおそれがあります。「赤字だから申告しなくていい」は誤りで、むしろ赤字の年こそ、将来の節税の弾を残すために、きちんと申告する――これが鉄則です。
なお、青色申告をするには、原則として、その事業年度の開始日の前日まで(設立初年度は設立から3か月以内などの期限まで)に「青色申告の承認申請書」を税務署に提出し、承認を受けておく必要があります。創業時にこの提出を忘れると、初年度の赤字を繰り越せないという、もったいない事態になりかねません。開業準備の段階で、青色申告の承認申請は必ず済ませておきましょう。
4. 別表七(一)の書き方 ― 控除未済→当期控除→翌期繰越
別表七(一)は、欠損金の「残高」を年度ごとに引き継いでいく台帳のようなものです。記入の流れは、次のとおりです。
まず、前期の別表七(一)の「翌期繰越額」を、当期の「控除未済欠損金額」に転記します。発生した事業年度ごとに、古い順に並べます。これが、当期に使える繰越欠損金の残高です。
次に、当期の控除前の所得金額を基準に、控除できる限度額を計算します。中小法人等なら、所得の100%なので、所得の全額が限度です。そして、古い年度の欠損金から順に「当期控除額」を埋めていきます。限度額に達したら、そこで打ち切りです。
最後に、控除しきれなかった欠損金と、当期に新たに生じた欠損金を合計して、「翌期繰越額」とします。これが、翌期の別表七(一)へ引き継がれます。当期が赤字だった場合は、その欠損金を当期分として翌期繰越額に加えます。
大法人の場合は、ここに50%の限度計算が加わります。たとえば、控除前所得1,000万円・繰越欠損金800万円の大法人なら、控除できるのは所得の50%=500万円まで。残り300万円は翌期へ繰り越し、500万円には課税されます。同じ条件でも中小法人なら800万円を全額控除でき、課税所得は200万円――この差が、中小100%・大法人50%という限度額の違いです。
5. 別表四・別表一との連動
別表七(一)は、別表四・別表一とつながっています。
当期が赤字かどうかは、別表四の「所得金額又は欠損金額」で判定します。ここがマイナスなら、その金額が当期の欠損金として、別表七(一)の翌期繰越額に乗ります。
逆に、繰越欠損金を当期の黒字から控除するときは、別表七(一)の「当期控除額」の合計を、別表四で減算します(欠損金等の当期控除額)。これにより、別表四の所得が減り、その減った後の所得が別表一へ転記されて、法人税が計算されます。別表一にも「欠損金等の当期控除額」を記載する欄があります。会計ソフト(freeeなど)で別表七(一)を選んでおけば、これらの金額は自動で連携されます。
具体例で見ましょう。後述するサンプルの第2期では、別表四で計算した控除前所得200万円から、別表七(一)の当期控除額200万円が減算され、所得は0円になります。その0円が別表一へ渡り、法人税も0円に(ただし均等割は別途かかります)。別表四・別表七(一)・別表一が、ここでも一本の筋でつながっているのが見えます。
6. 記入例:サンプル株式会社(創業期に赤字が出た場合)
サンプル株式会社はこれまで黒字の設定でしたが、繰越欠損金を理解するために、ここでは創業期に赤字を出したケースを例にします(中小法人・青色申告・説明用の概算)。前提は、第1期に300万円の欠損金、第2期は控除前所得200万円、第3期は控除前所得500万円、です。
| 事業年度 | 控除前所得 | 期首の繰越欠損金 | 当期控除額 | 課税所得 | 翌期繰越額 |
| 第1期 | △3,000,000 | 0 | 0 | 0 | 3,000,000 |
| 第2期 | 2,000,000 | 3,000,000 | 2,000,000 | 0 | 1,000,000 |
| 第3期 | 5,000,000 | 1,000,000 | 1,000,000 | 4,000,000 | 0 |
順番に見ます。第1期は300万円の赤字。課税所得は0で、この300万円を翌期へ繰り越します。第2期は黒字200万円。中小法人なので所得の100%まで控除でき、繰越欠損金300万円のうち200万円を控除して、課税所得は0円。残り100万円を翌期へ繰り越します。第3期は黒字500万円。残っていた繰越欠損金100万円を控除して、課税所得は400万円。繰越欠損金は使い切り、翌期繰越は0円になりました。
この3年間で、第2期の200万円と第3期の100万円、合わせて300万円の所得を相殺できました。法人税率を15%とすれば、ざっくり45万円ほどの法人税を節約できた計算になります。創業期の赤字が、将来の黒字を守る「弾」になっていることがわかります。
逆にいえば、繰越欠損金が残っているうちは、黒字が出ても法人税の負担が軽くなります。だからこそ、繰越欠損金の残高と期限(10年)は、資金繰り計画の重要な前提になります。あと何年で・いくらの欠損金が期限切れになるのかを別表七(一)で毎期確認しておくと、設備投資のタイミングや役員報酬の設計にも生かせます。残高が大きいうちは納税負担が軽い、使い切ると通常の課税に戻る――この見通しを持っておくことが、資金繰りの安定につながります。
なお、課税所得が0円になっても、法人住民税の均等割は納めなければなりません(赤字でも免除されません)。だから、第2期のように所得が0円の年でも、別表五(二)には税金(均等割)の数字が立つ――実務講座④で見たとおりです。

サンプル株式会社の繰越欠損金の3期の流れ:第1期は欠損金300万円で翌期繰越300万円、第2期は所得200万円を全額控除し課税所得0円・翌期繰越100万円、第3期は残り100万円を控除し課税所得400万円・翌期繰越0円。3年で合計300万円を相殺。
▲ サンプル株式会社の繰越欠損金の3期の流れを示した図。第1期に300万円の欠損金が出て翌期繰越額300万円、第2期は控除前所得200万円から200万円を控除して課税所得0円・翌期繰越額100万円、第3期は控除前所得500万円から残り100万円を控除して課税所得400万円・翌期繰越額0円となる流れを表す。
7. 注意点 ― 均等割・繰戻し還付・増資
- 均等割は所得0でも払う。繰越欠損金で課税所得が0円になっても、法人住民税の均等割は発生します。
- 繰戻し還付という代替もある。中小法人なら、当期の赤字を前期の黒字に繰り戻して、前期に納めた法人税の還付を受ける「繰戻し還付」も選べます。繰り越して将来使うか、繰り戻して今すぐ取り戻すか、将来の業績見通しと資金繰りで判断します。ただし、繰戻し還付は税務調査のきっかけになりやすいともいわれるので、選択は慎重に行いましょう。
- 増資のタイミングに注意。繰越欠損金を使い切る前に、資本金を1億円超に増資すると、大法人扱いになり、控除限度が所得の50%に下がります。資金調達と繰越欠損金の使い切り戦略は、セットで考えましょう。
8. 仕上げのチェックポイント
- 赤字の年こそ青色申告で確定申告を出す。連続して申告しないと、繰越欠損金が使えなくなるおそれがある。
- 中小は所得の100%控除・繰越10年・古い順。3つのルールを正しく当てはめる。
- 当期控除額の合計を別表四で減算し、別表一の欠損金等の当期控除額へ。当期の赤字は別表四の欠損金額から翌期繰越額へ。
- 所得0でも均等割は払う。別表五(二)・別表一の地方税側を忘れない。
会計ソフトを使えば、繰越欠損金の残高管理や控除計算、別表四・別表一との連携は自動で行われます。それでも、「赤字は将来の黒字と相殺できる弾になる」「中小は100%・10年・古い順」という骨格を理解しておけば、創業期の赤字を将来の節税につなげる判断ができ、資金繰りや増資の意思決定にも生かせます。
まとめ:別表七(一)を書くための要点
- 別表七(一)は、過去の赤字(繰越欠損金)を将来の黒字と相殺するための別表。法人税を将来にわたって平準化できる。
- ルールは3つ。繰越10年・中小は所得の100%控除(大法人50%)・古い順。
- 要件は、欠損金の年に青色申告+その後連続して確定申告・帳簿10年保存・別表七(一)添付。
- 記入は、前期の翌期繰越額→当期の控除未済欠損金額→当期控除額→翌期繰越額。当期控除額の合計は別表四で減算。
- 所得0でも均等割は払う。中小は繰戻し還付という代替も選べる。
別表四・一・五(二)・五(一)に、この別表七(一)を加えると、赤字の年・黒字の年のどちらにも対応できるようになります。あとは、減価償却(別表十六)や交際費(別表十五)など、自社に関係する明細書を必要に応じて加えていけば、申告書一式が仕上がります。
- 前回:【法人税の実務講座⑤】別表五(一)の書き方・記入例をわかりやすく解説
- 次回:【法人税の実務講座⑦】別表十六(減価償却)の書き方をわかりやすく解説
あわせて読みたい
- 【法人税の実務講座①】別表四の書き方・記入例をわかりやすく解説
- 【法人税の実務講座④】別表五(二)(租税公課の納付状況)の書き方をわかりやすく解説
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。記入例の金額は説明のための概算であり、税額・記載は法人の状況や様式により異なります。実際の申告にあたっては、最新の様式・記載要領を国税庁等で確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。